大同特殊鋼 (2021年6月版)

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展望

鋼の可能性を追求

　同社は、名古屋に本社を置く世界最大級の特殊鋼メーカーである。「電力王」福沢桃介が電気炉製鋼の事業化を目指し1916年に創業、合併の変遷を経て76年に設立された。現在は、自動車や航空機などの輸送機、発電所や産業機械、パソコンや携帯電話など様々な分野へ素材を提供している。

　特殊鋼とは、特殊な性質を持つ鋼(はがね)で、添加する炭素以外の元素の種類や量に応じて、熱に対する強さ、硬さ、強靭さ、耐久性など様々な性質が異なり、構造用鋼、工具鋼、その他の特殊用途鋼などに大別される。

　21年3月期部門別売上高構成比は、特殊鋼鋼材35.3％、機能性材料・磁性材料36.2％、自動車部品・産業機械部品19.6％、エンジニアリング4.9％、流通・サービス4.0％であった。新型コロナウイルスの影響を余儀なくされたが、足元は自動車生産の回復を受け、前年同期を上回るレベルまで戻り、工具鋼なども回復基調となっている。また機能材料・磁性材部門は、駆動モーター用向け磁性材料の好調などを背景に売上高のトップセグメントとなった。今期の課題として、機能材料・磁性材部門の投資効果の発現や、特殊鋼鋼材部門のマージン改善などをあげる。

　同社は、課題への対応をから新組織体制への移行を実施する。特殊鋼鋼材部門は、EV化による需要減少に備え営業部門を再編、製造部門も生産本部の一元的体制とし、基軸である鋼材事業の強化を図る。また、海外営業部を設置し、海外需要の捕捉を目指す。素形材・工具鋼事業では、自由鍛造を事業統合し効率的生産を志向、コスト競争力を強化する。また、両部門ともに海外営業部を設置し、市場の拡販を推進する。そして、自動車のＣＡＳＥ、先進医療、次世代エネルギーなど、成長分野での機能製品群（粉末・帯鋼・電子部材）の新規需要の創出をめざし、次世代製品開発センターと機能製品事業部を立ち上げる。

　同社は昨年、CO2削減プロジェクトを立ち上げ、2013年度対比排出量 50％削減を目標に掲げた。CO 2 排出量の内訳は、電力と都市ガスで排出量の約90 ％占めており、今期より省エネの徹底と、再生可能エネルギー由来の電力の導入を開始、30年に向け購入量を拡大する計画である。

　今後も、鋼の可能性を追求する同社に注目したい。

（戸谷　慈伸）