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環太平洋・インド洋・大西洋経済連携協定 (2018年6月版)

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定とは、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国、ベトナムの計12カ国による包括的な経済連携協定であり、2015年10月に大筋合意し、16年2月ニュージーランドで署名されている。その後、17年1月に「米国のトランプ大統領がTPPから離脱を表明」しているが、同年11月にベトナムで開催された米国を除く11カ国の閣僚によるTPP閣僚会合において、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定・CPTPP)で大筋合意しており、18年3月には日本を含めて11カ国の閣僚が署名を行っている。

 

同協定はアジア・太平洋地域において、物品・サービスの貿易並びに投資の自由化・円滑化の推進、知的財産・電子商取引・国有企業・環境等の幅広い分野で新たなルールを構築し、TPP協定の内容を実現するための法的枠組みについて定めている。同協定の締結は海外の成長市場を取り込み、日本のGDPの押し上げや税収増に寄与するものだ。世界的に保護主義の傾向が強まる中で、21世紀型の貿易・投資ルールを広げていく事は貿易立国の日本には極めて貴重な追い風になるであろう。

 

米国のGDPは19.4兆ドル、人口3.2億人であり、同国の離脱は残念な事だが、TPP11のみでもGDP10.6兆ドル(世界全体の13%)、人口約5億人の規模になる。また、今年5月に茂木敏充経済財政・再生相は日本の主導でまとめてきたTPP11は早ければ来年早々にも発効の見込みであり、タイのソムキット副首相との会談で同副首相がTPPへの参加に強い意向を示したと発言している。TPPはタイなど一層の広がりをみせる可能性が高く、今後の展開が期待される。

 

比較優位の原則とは各経済主体が自身の最も優位な分野に特化する事で、各々の労働生産性が増大し、互いにより高品質の財やサービス、高収益等が享受できるというものだ。貿易では自国の得意な財の生産に特化し、自由貿易を推進する事で自国も貿易相手国も多くの財を消費する事ができる。多国間が一定のルールに従って競争すればより良い製品等を生み出すため、保護貿易よりも自由貿易の方が、大多数の国民が得をする事になる。比較優位の原則は経済の真理といえる。この真理にクレームをつけているのがトランプ氏であり、世界は毅然たる対応をするべきだ。

 

ただ、同氏は米国大統領として強大な権力を持っているため、当面は時間稼ぎをして、米国が異常から正常に戻るのを待つのが得策であり、日本はTPPがなぜ必要なのかを粘り強く説明する事が肝要だ。IMFの資料(17年)によれば世界のGDPランキングは米国19.39兆ドル、中国12.01兆ドル、日本4.87兆ドル、ドイツ3.68兆ドル、英国2.62兆ドル、インド2.61兆ドルになる。成長率の格差等から、中国がGDPで米国を上回るのは時間の問題といえる。トランプ政権は米中貿易摩擦を激化させ、中国の成長率を低下させようと躍起になっているが、焼け石に水であろう。米国から中国への輸出額(17年)は1,304億ドル、上位製品は航空機関連163億ドル、大豆124億ドル、乗用車105億ドルになる。輸入額が5,056億ドルもあるため、貿易摩擦で高関税を掛け合った場合、中国の方が圧倒的に不利に見えるが、甚だ疑問である。

 

米国は今年11月にも中間選挙があり、「民意を問う選挙のある国」だ。それに対して共産党一党支配の中国は「民意を問う選挙のない国」である。対中輸出で上位品目の大豆や乗用車の生産に関わる農民や労働者はトランプ氏の有力な支持層であり、米中貿易摩擦が激化した場合、トランプ氏の与党の共和党は中間選挙で大打撃を受ける事は必定だ。また、中国政府が本気で乗用車等を標的にすれば同国内で生産されている米国車の販売は激減するであろう。米中貿易摩擦はやや沈静化しつつあるが、貿易摩擦を激化させる事は失うものも多く元々、無理な事だと解釈している。トランプ氏の品位に欠ける恫喝外交に世界はいつまで付き合わされるのであろうか。

 

中国は共産党一党支配の政治体制であり、同国がGDP世界1位になる状況をこのまま看過する事は避ける必要がある。そのためにもユーロ圏のような経済ブロックを日米の主導で構築する事が肝要だ。TPPとはそのための極めて重要な良策であり、現在は米国が離脱しているが、日本は強い意志を持ってTPP11を確立するべきだ。そして、タイなど他の諸国の加盟も促す事を推進する必要がある。さらに、太平洋だけでなく、インド等のインド洋の周辺国や英国・ブラジル等の大西洋周辺国も加えた「環太平洋・インド洋・大西洋経済連携協定」を目指すべきだ。

 

インドの1人当たりGDP(17年)は1,983ドル(米国5万9,501ドル、日本3万8,440ドル、中国8,643ドル)と低水準だが、人口も30年には15.1億人(中国14.4億人)になり、凄まじいGDP拡大の潜在力を内包している。米国やインド・英国等が加わった「環太平洋・インド洋・大西洋経済ブロック」のGDPを中国が単独で抜く日は永遠に来ないであろう。議会制民主主義国家が世界経済を円滑にリードするためにも、『保護貿易主義を排除し、環太平洋・インド洋・大西洋経済連携協定の構築』に日本は尽力するべきだと考察したい。

 

(北川 彰男)

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