投資という花 (2015年12月版)
日本の消費者物価総合指数(除く食料・エネルギー)は1994年末から12年末まで、マイナス5.3%、同期間の米国の消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は46.3%の上昇になっている。総務省等の統計で試算したワーカー(一般工職)の月額の米ドル建て賃金は94年末で日本が米国を約40%も上回っている。米国に追いつき追い越せで上昇した日本のドル建て賃金は円高の影響もあるが、94年末の時点で米国を大幅に上回っており、高すぎるものには下落の圧力が掛かるのは経済の原理であろう。賃金上昇が抑制されれば物価も上昇しにくくなるのは当然の帰結だ。これがその後、18年間にわたり日本経済がデフレ傾向に陥った真因だと解釈している。
しかし、現在は正反対の状況になっている。ジェトロ(日本貿易振興機構、14年12月~15年2月調査、米ドル換算価格は15年1月5日、日銀発表の中心相場・120円29銭)によるワーカーの都市別月額賃金調査ではニューヨーク「2996ドル」、ロサンゼルス「2686ドル」になり、東京「2373ドル」、大阪「2187ドル」を大幅に上回っている。為替の問題はあるが、今後、労働生産性を同水準にすれば米国が賃金を上げた分だけ日本も賃金を上げる事は十分、可能な経済状態になっている。
賃金が上がれば物価も上昇し、日本はデフレから脱却して、名目GDPが増える経済の定着が可能になる。名目GDPが増えれば税収弾性値の関係から、GDPが増えた分だけ「1.1~1.5倍ほど」税収も増加するであろう。税収が増えれば財政赤字問題も大きく改善していく事ができる。そうすれば女性が働きながら子供を育てるための環境整備に予算をつぎ込む事が可能になる。低迷している出生率も上昇し、人口減にブレーキを掛ける事ができれば経済の下押し圧力を緩和する事が可能になる。将来的には、「移民」ではなく、海外の人に「移住」していただく、このような考え方が浸透していけば人口減をストップする事も不可能ではないと思われる。
日本経済は政策次第で未来は明るいが、この実現には「大敵」がいる事も理解しておく必要がある。それは、『成長しない事を前提とした経済政策を考えるべき』という経済論の存在だ。数年前、このような経済論が主流派になりかけた時期もあった。既にモノがあふれているので、買いたいものが少なくなっている。だから、無理に成長しようと思うと弊害しか生まないという思考だ。たしかに先進国では消費財は供給過剰になっている面はある。それでは、新興国の方々は豊かな生活を求めてはいけないのであろうか。
中国の1人当たりGDPは14年で約7400ドルになるが、米国の「14%」、日本の「21%」の水準だ。インドや東南アジア、アフリカなど中国を下回る1人当たりGDPの国は数多くあり、新興国の方々には豊かになる権利がある。先進国のような快適で便利な社会インフラ、豊かな消費財を手にする権利がある。グローバル化とは国境の垣根が低くなる事であり、新興国の生活水準が上昇してくる事は経済の真理といえる。日本企業は、このお手伝いをするために必死に取り組んでおり、それが日本経済の長期的成長、日本企業の業績拡大につながっていくと推察される。
成長経済には「格差の是正」、「所得の再分配」が課題になるが、これらは税制など別の方式で解決すべきであろう。日本のような凄まじい財政赤字大国は経済政策を少しでも間違えるとギリシャのような年金の遅延や支払額のカットなど大変、辛い状態に陥る危険性がある。他の分野は別の問題として、経済政策は「成長重視の政策」しかないと推察している。成長重視は時代遅れなどとする経済論を二度と主流派にすべきではない。それができるのは国民自身の政治の選択であろう。
NYダウは1982年8月12日の「776ドル92セント」が、今年5月19日に「18312ドル39セント」まで、約33年間で「23.6倍」になっている。先月号の当コーナーでご案内した通り、日米のPERは平準化しており、PERが低下する事で株価が下落するパターンは過去の事になっている。短期的には様々な問題が発生するが、長期でみれば米国の株式市場のように企業利益の拡大に応じて株価も上昇するパターンが定着すると思われる。そんな夢をもって、ゆったりした気持ちで投資をする事が肝要であろう。日本の株式市場に『投資という花』が咲き続ける事を期待したい。
(北川 彰男)