米国の経済・株価の動向 (2015年9月版)
米国や中国の株価が8月下旬にかけて急落した事もあり、日本の株式市場も乱高下を余儀なくされている状況だ。中国に関しては次号以降に触れる事にして、今月の当コーナーでは日本の株式市場に最も大きな影響力を持つ米国の経済・株価の動向について考察したい。結論からいえば現状の米国の株価下落は実体経済よりも先行して、上昇し過ぎていた反動による調整だとみている。しかし、経済の実態はバブルとはほど遠い状況であり、今後の米国経済は長期にわたって成長が続くと推察している。
米国の強さは問題解決能力の高さであろう。100年に1度の経済危機ともいわれたリーマンショックが発生したのは2008年9月15日の事であった。その影響もあり、米国の09年会計年度の財政赤字は1兆4157億ドルであったが、15会計年度では5640億ドルの見通しになっており、果敢な金融緩和政策と適切な財政拡大政策が功を奏したといえる。同期間に財政赤字のGDP(国内総生産)に対する比率は9.8%から、3.1%まで急減しており、財政赤字の削減が中々、進まない日本とは大きな格差があると思われる。
その米国もリーマンショックの際は、主要平均株価指数が短期間に50%以上も暴落しており、今回も同じ事が起きると発言している一部の経済学者もいるが、強い疑問をもっている。理由としては、リーマンショック発生の真因は米国の過剰消費を是正するものであったと解釈しているからだ。経常収支(貿易・サービス収支、所得収支などで構成)が赤字の場合、国の経済全体としては総需要が総供給よりも大きい状態であり、要約すれば過剰消費が経常赤字をもたらしている構図だ。
米国の経常赤字問題は1980年代より指摘されていたが、06年には8067億ドルまで拡大していた。それが、14年には4106億ドルになり、経常赤字の対GDP比は「5.8%」から「2.4%」まで削減が進んでいる。米国の過剰消費は既に過去の問題になっており、リーマンショック時のような急速な信用収縮、株価の暴落は起きないと思われる。
同国の実体経済を表す代表的なものとして新車販売台数と住宅着工件数があげられる。新車販売の主な推移(月次年換算ベース)は06年1月・1762万台から、09年2月・912万台まで急減していたが、今年5~7月には1700万台が定着しており、リーマン前の状態に戻っている。これに対して、住宅着工件数の主な推移(同)は06年1月の227.3万戸から、09年4月に47.8万戸まで急減しているが、今年7月でも120.6万戸と回復が大幅に遅れている状況だ。
同件数は72年1月に249.4万戸、84年2月で226万戸などのピークをつけているが、現状の米国の住宅着工件数は極めて低水準の状況にあるといえる。同国の人口は70年の2.1億人が14年で3.23億人、30年には3.63億人に増加する見通しであり、住宅に関連した数値は今後、大幅に回復し、さらに継続して拡大すると思われる。
米国人は生活水準の向上に応じて住宅を買い替えるライフスタイルが定着しており、住宅は蓄財の対象になっている。住宅を買えば家具や電化製品など様々な耐久消費財も合わせて購入する事になる。その住宅市場が過去の数値との比較や人口増を考慮した場合、現状の低水準の住宅着工件数が継続するであろうか。米国の株価はリーマンショック時からみれば大幅に上昇しているが、住宅市場の今後の伸びを考えればバブルとはほど遠い状況であり、米国株は短期的な調整を反復しながら長期的には上昇していく事が予想される。
当コーナーの今年1月号で『今後の波乱要因は、米国の名目GDP(FRB発表、暦年)に対する株式時価総額(国際取引所連合が発表するニューヨーク証券取引所とナスダック市場の合計)の比率が過去の水準と比較して、高すぎる事であろう』と記述している。GDPに対する株式時価総額の比率は今年5月末で153%(95年末~14年末の平均124%)になっており、日本の89年末の147%を上回る水準であった。年初から米国の株価が伸び悩んでいたのは、実体経済よりも株価が先行し過ぎている事を警戒したものであろう。ただ、米国経済の成長余力は大きく、米国株の下落が続き、日本の株価が長期的に停滞する可能性は低く、日本株の長期上昇波動は継続すると推察している。
(北川 彰男)