ROE重視の経営と企業統治強化 (2015年6月版)
今年5月、東京証券取引所第1部上場企業の時価総額(株価に発行済み株式数をかけて計算)は、バブル経済と呼ばれている1989年12月末の約590兆円を突破し、史上最高額を更新している。ただ、これは上場銘柄数がバブル期との比較で、60%ほど増えた事によるものであり、日経平均株価は最高値の89年末の38915円に対して、直近の高値は2万円をわずかに超えた水準に留まっている状況だ。その面で回復は全くの道半ばであり、多くの方々の大きな関心事はこの株価の上昇がどこまで続くのかだと思われる。
結論からいえば平たんな道だと楽観視する気は全くないが、『方法次第』で日本の株式市場を長期上昇波動の気流に乗せる事は可能だと推察している。当コーナーの今年2月号(主題、中長期の株価予想)で、「15年後」の日経平均株価の見通しを「40193円」(同時点における予想)としており、同年3月号(同、株価の持続的上昇の条件)、4月号(同、成長戦略&ROE経営の必要性)、5月号(同、シニア国家にふさわしい成長戦略)で、現状の主な課題とそれを克服していくための方法論を簡略にまとめている。
ファイナンス理論の一般的な解釈では、「株価は将来キャッシュフローの割引現在価値」とされており、簡単にいえば企業の利益見通しが長期にわたって明るいものになれば株価は基本的には上昇するという事であろう。現在はグローバル経済であり、各企業とも海外売上高をいかに拡大するかを重要視しているが、それでも企業業績は国内経済の状況に一定の影響を受けざるを得ないと思われる。
日本経済の2大弱点は「財政赤字」と「少子高齢化」になるが、成長しない事を前提とする文化国家論等の経済政策を選択すれば日本経済は「重税に苦しむ極東の老大国」の道を歩む事になり、国内経済の衰退から企業利益の減額圧力が発生し、それは株価の下押し要因として、長期にわたって株価は停滞せざるを得ない状況に追い込まれるであろう。それは当然、株価だけの問題ではなく、経済力の弱い中低所得者層ほど生活に苦しむ事になると推察される。
これを克服するための有力な方法として、「自己資本利益率(ROE)重視の経営」の推進があると思われる。日本の財政赤字は巨額なため容易に解決できる問題ではないが、ROE経営で企業が稼ぐ力を増加していけば、賃金の支払い能力も増し、法人税や所得税を累積して増加させていく事が可能になり、「財政赤字」を克服する道筋がみえてくるであろう。「少子化」は欧州の出生率に関する成功例をみれば明白なように女性が子育てをしながら働き続ける事が可能な職場環境や男性と区別のない仕事への評価を定着させる事ができれば出生率は上昇すると思われる。少子化問題は財政再建をして相応の財政支出をすればかなり解決できる問題であろう。
また、先月号の当コーナーでご紹介させていただいたように訪日外国人や技能実習生を一段と増加させ日本のファンを大幅に増やして「移民」ではなく、彼らに「定住」してもらい日本人になってもらうようにすれば出生率の上昇と合わせて、人口の維持も夢物語ではないと推察している。それを達成できれば設備投資の国内回帰や個人消費も一定の水準を維持する事が可能になり、国内需要の長期低落傾向に歯止めをかけ、企業利益を下押しする潜在的な圧力の解消につながるであろう。株価は未来を予見して動いており、将来の不安要因を取り除いていけば現在の2万円台の日経平均株価も長期的には単なる通過点にしか過ぎないものになると思われる。
このROE重視の経営をより着実に上場企業に定着させる方法として生まれたものが、東京証券取引所が今年6月から導入するコーポレートガバナンス・コード(企業統治の指針)であろう。同コードは上場企業を対象に企業が守るべき行動を規定しており、株主との対話など5つの基本原則で構成されている。機関投資家等はROEの低い企業に対して厳しい姿勢で臨む事が予想されており、今後、全ての上場企業に対して一定以上のROEの水準を持続的に義務付ける圧力が強化されるであろう。これにより、ROE重視の経営の定着、経済の効率性向上、財政再建の実現から経済・株価の持続的な成長の道がひらかれると推察している。
(北川 彰男)