成長戦略&ROE経営の必要性 (2015年4月版)
日本の株式市場が順調に上昇している。一部では官製相場等の見方もあり、バブルの進行を危惧する指摘もされているが、現在の株価の上昇は日本経済が進むべき方向に向かっている事を評価した動きだと解釈している。ROE(自己資本利益率)とは企業の当期純利益を自己資本(株主持分)で割った数値であり、株主が投資した金額に対して、どれだけ効率的に利益を計上したのかを示す指標として注目されている。日本の上場企業の平均ROEは8%台、米国は15%前後になっており、現状では大きな格差がある状況だ。
JPX日経インデックス400は日本取引所グループ、東京証券取引所、日本経済新聞社が共同開発した株価指数であり、算出開始日は2014年1月6日になっている。指数の採用銘柄は東証の上場銘柄からROE等に着目して選定しており、同指数の制定後はROEの向上を重視する経営が日本の上場企業にも徐々に浸透していると思われる。
資本の効率的活用や企業のオーナーである投資者を意識した経営観点等はグローバルな投資基準になっており、ROE重視の経営を促進する事で、日本企業への海外投資家の注目度は継続的に高まっていく事が予想される。ROE経営が浸透している米国では、一定以上のROEの水準を投資家が求める事により、上場企業に対して持続的な企業価値向上への強い圧力が発生していると推察される。
米国では1990年代以降、投資した資本の効率性を高めるためにM&A(企業の合併・買収)が活発に行われている。経営統合では時価総額等を参考に統合する場合の比率が決定される要因もあり、株価が高く時価総額の大きな企業のほうがM&Aの際に有利になるといえる。投資家の評価を高めて株価の上昇を実現するためには株主の投資額に対して、高水準の純利益を持続的に計上する必要があり、そのために米国の経営者は競い合うようにROE重視の経営を推進したと思われる。
高水準のROEを維持する経営はEPS(1株当たり利益)の継続的な拡大をもたらし、米国の主要平均株価指数の長期的な上昇を可能にしたと推察している。ちなみに米国の代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は1982年8月12日の776ドル92セントから、2015年3月2日には182888ドル63セントになっており、32年6カ月余で「23.5倍」に上昇している。米国市場上場の主要500銘柄で構成されているS&P500種指数も同期間に102.42から、2117.39まで「20.7倍」になっている。
ROEの重視は経営者が長期的な視点を欠き、短期的な利益のみを追うようになるなどの批判もある。また、効率性を追求する事は弱者の切り捨て、格差の拡大をもたらす欠陥もあると思われる。格差の拡大は中低所得者層の購買力の低下につながる事もあり、深刻な問題であろう。米国等では極端な貧富の格差が発生しているが、格差社会の深刻化は日本人の心情には合わないと思われる。
しかし、より長期的な視点に立てば資本効率を上昇させていく事は資金の有効活用、経済の新陳代謝の促進となり、それは日本経済全体の生産性を高めて名目GDPの拡大、税収の増加、財政不安の抑止力につながると推察している。日本の経済・経営の根幹は「成長戦略&ROE経営」を推進し、それによって生じる格差問題は累進課税を若干強化し、その財源は教育費関連に回すなど『機会の平等』を確保する事が肝要だ。より多くの国民が納得できるように格差問題などにはきめ細かい気配りをし、現状の成長戦略&ROE重視の経営を半永久的に継続すべきであろう。
株式を直接保有していない方も多い事から、株価の上昇は無関係と思っている方も多数いらっしゃるのではないか。しかし、日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資産額は昨年末で137兆円余になる。その内、国内株式の運用比率は19.8%(金額は約27.1兆円)になり、同比率は基本資産構成割合で25%まで伸ばす方針になっている。「成長戦略&ROE経営」の着実な遂行は全国民の共通財産でもある公的年金の長期的な安定支給のためにも不可欠な要素だと推察している。
(北川 彰男)