株価の持続的上昇の条件 (2015年3月版)
日経平均株価は今年2月にほぼ15年ぶりの高値となる18,800円台をつけて、堅調に推移している状況だ。直近の大きな関心事は、現状の株価上昇の持続性であろう。結論から言えば日本の株式市場は様々な課題を乗り越えて、長期上昇波動を形成する道を歩み始めたと推察している。長期的な日本経済の2大リスク要因は「財政赤字」と「少子化」になるが、これは奥深いテーマであり、紙幅の関係で後述する事にし、今月号では当面の重要な課題となる「賃上げ」と「TPP」(環太平洋経済連携協定)について言及したい。
賃金の引き上げは日本経済の持続的な成長には不可欠な要素になると思われる。賃金が上昇し、物価も押し上げられて名目GDP(国内総生産)が持続的に拡大する事で税収も増加する。この好循環をつくる事ができれば日本経済の長期的な発展は可能になるであろう。それでは、なぜ今までできなかったのであろうか。それは、当コーナーで何度もご案内している事だが、高すぎた米ドル建て賃金に対する平準化の経済的圧力が掛かっていたため、円ベースの賃上げを抑制せざるを得なかったからだと思われる。
日米製造業の時間当たり賃金の格差(総務省統計局の資料より試算)は94年末で40%、99年末で25%も日本が上回っている。これが日本の賃金上昇への抑制、物価の長期的な押し下げにつながったと推察される。経済のグローバル化とは国境の垣根が低くなる事で、あらゆるものに国際的な平準化の圧力が発生するものであり、これは日本の円ベースの賃金にも影響せざるを得なかったと解釈している。
しかし、高すぎた米ドル建て賃金は既に過去の問題になっている状況だ。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)のデータ(調査時期、13年12月~14年1月)によればワーカー(一般の工員、職員)の都市別の月額賃金(米ドル換算)はニューヨークで「2,980ドル」、東京では「2,523ドル」になっている。ドル円レートは14年1月6日の104円69銭(日本銀行発表の中心相場)でドル換算されており、調査時点の円ベースの賃金等を同一と仮定した場合、2月27日時点のドル円レートの119円26銭(同)で試算すれば東京のワーカーの月額賃金は「2,215ドル」になり、ニューヨークを25%以上も下回る水準になる。
春闘(春季労使交渉)という言葉は長い間、余り話題にならなかったが、前述のような数値をベースに相応の姿勢で継続的な賃金上昇の実現を目指すべきであろう。ただ、賃金は多様であり、月例賃金・ベースアップ(ベア)、定期昇給、一時金・ボーナス、手当の改定を組み合わせて、子育て世代の給付を手厚くするなどの工夫も必要だと思われる。また、大企業は中小企業との取引適正化、生産性向上への支援により、中小企業の支払い能力を高める事に留意すべきであろう。中小企業も含めて労働生産性の向上を推進し、物価の上昇を上回る賃金上昇のすそ野をいかに広げていくのかが今後の課題であろう。
次にTPPに関しても簡略に触れたい。TPPを巡る日米協議は難航しつつも大筋合意に向けて着実に前進している状況であろう。農業分野など自国の産業育成は当然のことだが、各国とも得意分野を伸ばし、発展途上の分野は競争力向上に努める。これにより世界経済全体の生産性が向上する事で、より多数の人の生活が豊かになると思われる。これは経済の基本原理だと解釈している。以上の『継続的な賃上げ』と『TPPの推進』は日本経済の長期的な発展には不可欠な要素であり、経済の鏡でもある株価の持続的上昇の条件になると推察したい。
今年の日本の株式市場は国内要因では余り大きな問題はないと思われる。波乱があるとすれば米国株の影響を強く受ける局面があるのではないか。米主要平均株価であるS&P500採用企業の1968年~2008年の年末最終週・実績ベースの平均PERは17.6倍になっているが、最近の同PERは約19倍で推移している。米国株をバブルと発言する一部のエコノミストの論評等は短絡的だと思われるが、多少割高な状況ではあり、米国株にはスピード調整の圧力が高まっていると推察している。
(北川 彰男)