日本経済の現状を打開する道 (2014年11月版)
消費税率を2015年10月に8%から10%に引き上げるべきか否か、議論が活発になっている。今年4月以降の経済指標が不振である事から、消費増税の先送り論も徐々に強くなっている。「現在の低迷する景気の状況で、税率引き上げが妥当であるのか」、これは先送り論の代表的な意見の一つであろう。
消費税の問題に関して、結論からいえば反対派の論理は数十年間、同じ事を言い続けてきたと思われる。1978年12月に大平正芳首相(当時)は自民党税制調査会を通じて「一般消費税の80年度中の導入」を提言している。78年度の一般会計税収の21.9兆円に対して、同年度末の公債残高は税収の約2倍の43兆円であった。これに対して14年度の税収予想は約50兆円、同年度末の公債残高は税収の15.6倍の約780兆円の見込みになっており、先送りを続けた結果、現状の凄まじい公債(借金)残高の金額になったといえる。
公債とは国が発行する債券であり、金額が余りにも巨額なため、どこか他人事のように思っている方も多いのではないか。しかし、借金は元本も利息も本来は返さなくてはならないものであり、いずれ何らかの方策で国民自身が返済しなくてはいけないものだ。現状は日本銀行が国債を大量に買うという正常とはほど遠い金融政策を採用しているから、これほどの借金の残高を抱えていても国債の市場価格は均衡を保っていると推察される。
税収見込みの約16倍という公債残高の異常な膨張が累積していけばいずれ市場価格の反乱から、長く厳しい痛みを伴う経済状況に日本人全体が苦しむ事になるであろう。消費税率の引き上げは家計の負担であり、短期的には痛みが伴うものだ。しかし、日本の高齢化の進行は医療費や介護など社会保障費を増加させる事になり、社会保障の財源を消費増税でまかなう事は長期的に国民の暮らしを安定させるために不可欠な政策だと思われる。現在の消費税率の引き上げに関する法案がなぜ成立したのか。迷った時は原点に返る事が肝要であろう。
日本経済は人口の減少と巨額な借金を抱えており、これを克服して成長を実現するのは容易ではないと思っている。ただ、道筋も見えてきたと推察している。財政赤字の要因の一つとして、物価が下落する事で名目GDPが停滞し、税収も増加しないため財政赤字も改善しないという深刻な問題があった。物価下落の要因は多様だが、国内の平均賃金が伸びなかった事も大きな要素だと思われる。
総務省統計局のデータによれば1994年の米国と日本の製造業の平均賃金は以下のようになっている。米国の時間当たり賃金は「12.07ドル」、日本の月額の賃金は27万6700円である。同年の日本の週当たり実労働時間は37.6時間になる事から、時間当たり賃金を概算すれば1694円になる。94年12月の月中平均のドル円相場は100円17銭になり、ドル換算では「16.91ドル」になる。同時点の製造業の時間当たりドル建て賃金は日本が米国を「40.1%」も上回る水準であった。
日本貿易振興機構の最近の調査(米国は13年12月~14年1月、日本は14年1月、ドル円相場は14年1月6日、日銀発表の中心相場104円69銭でドル換算)によれば一般工職の月額賃金はニューヨーク2980ドル、シカゴ2886ドル、ロサンゼルス2650ドル、東京2523ドル、大阪2701ドル、横浜2764ドルと現状では、ほぼ同水準になっている。94年末から12年末の日本の消費者物価指数(除く食料・エネルギー)は5.3%下落(年平均0.3%)し、同期間の米国の消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は46.3%の上昇(年平均2.14%)であった。
賃金と物価は密接な関係にあるが、大幅にかい離していた日米のドルベースの賃金が平準化した事で、長期的に米国の賃金が上昇すればそれに応じて日本の賃金も上昇する事は可能であろう。今後は賃金と物価が上昇する循環が定着し、日本の名目GDPと税収が継続的に伸びる見通しもでてきたと思われる。苦しい面もあるが、成長戦略と財政再建を着実に実行していく事が、日本経済の現状を打開する道だと推察している。
(北川 彰男)