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訪れる変革の時 (2025年2月版)

トランプ米大統領の第2次政権が始動した。初日から多くの大統領令に署名し、米国第一主義を掲げる政策への期待感が、市場では先行している。注意すべきは株価の割高感だ。第1次政権当時のS&P500予想PERは、18倍台に過ぎなかったが、現在は25倍近くで推移しており、規制緩和や減税を進めても、上昇余地が限られる可能性もある。

 

昨年末に「年賀状じまい」と耳にした方も多いだろう。2025年の年賀はがきの当初発行枚数は、10.7億枚(日本郵便発表)と前年から25.7%減少し、2004年のピーク44.6億枚から約20年間で4分の1となった。SNSや電子メールの普及と、環境配慮や社会通念の変化によって、取りやめる個人や企業が増加した。更に追い打ちをかけたのが、はがきの値上げである。値上げは以前から繰り返されてはいたが、昨年の場合、人件費や燃料費等高騰を理由に63円から85円へと大幅な値上げとなった。昨年12月の日銀短観の雇用人員判断DIでも、バブル期以来の不足幅を記録しており、運輸・郵便は全産業よりも人手不足が深刻化している。年賀状文化の衰退は、時代の趨勢と結論付けられがちだが、背景にある少子高齢化の存在を忘れてはならない。

 

将来的問題として再三取り上げられる少子高齢化は、生産年齢人口の減少、すなわち労働力減少入りを意味し、人手不足を生みだす。国内の生産年齢人口(15~64歳の人口)は、1995年をピークにすでに減少に転じているが、現状の労働力人口(失業者も含めた労働意欲を持つ人数)は底堅い推移を続けている。これは政策サイドによる、働く女性や雇用延長などの就業機会の拡大が後押しし、減少を食い止めてきたと考えられる。

 

女性就労の拡大は、「103万円の壁」の引き上げなどで今後も余地があるとみられ、高齢者の就業率も、雇用機会確保義務が強化される 4 月施行の「高年齢者雇用安定法改正」により、今後も上昇が続くと予想される。しかし、そういった施策にも限度はあり、労働力人口は先々には減少に転じると考えるべきだろう。今年終戦80年を迎えるにあたり、すべての団塊世代が後期高齢者となり、そのジュニア世代も2030年代には60歳を越えることは、日本の人口動態における一つの節目を迎えるといって過言ではない。

 

この状況は、労働力減少を通じて日本経済の成長(供給力)の低下をもたらす要因となりうる。足元、サービス業などを中心に顕在化する人手不足は、今後さらに強まる傾向にあるとともに、ある研究機関では、2050年にはシニア層とよばれる60歳以上の労働力人口割合は、3割以上に上ると予測されている。人口減少とともに、企業が人手不足に対応するため、AIやロボットなどによる自動化・省力化の導入や、DX(デジタルトランスフォーメーション) 推進を急ぐなか、産業構造は変革期を迎えている。他方、労働力不足を解消するための外国人労働者の就労受け入れ拡大についても検討されてはいるが、そのために必要な制度づくりや多文化共生社会の整備、他国との賃金の比較など、現時点での課題は山積した状態である。

 

また、少子高齢化により起こる人口構造の変化は、高齢者向け市場の拡大と、若者向け市場の縮小という構造変化も生じさせる。第一次産業をはじめとした後継者不足や、事業の廃業、そして合併・統合は増加傾向となる。労働力減少を代替するAI、ロボティクス、介護、医療、健康食品などの高齢者向け市場は拡大する一方で、ファミリー層や教育などの子ども向け市場の縮小も想定される。同時に地域経済ほど、その変化が顕著となる可能性が高く、多様な地域独自性の地盤沈下も懸念される。直接の関係はないが、単身者世帯の増加についても、今後の人口問題や産業構造に影響を及ぼすだろう。

 

労働力減少の問題は、日本経済の成長(供給力)の低下をもたらす要因として、以前から議論される機会は多いが、団塊の世代を含む後期高齢者の増加を考慮すると、消費(需要力)意欲の低下についての議論も加える必要があるだろう。

 

生産人口の増加、すなわち出生率上昇による人口ピラミッドの再構築が最適解であることは言うまでもない。多くの先進国においても同様に、少子高齢化と人口減少の問題は存在しており、規模の相違はあるものの、多くの先進国で同様の問題に直面すると考えられている。日本は、最初に課題に直面することで、対応においての先駆者となる。

 

年賀状のごとく、文化や産業の衰退を辿るのか、この構造変革の時をチャンスと捉えられるのか。世界からも注目されるだろう。

 

(戸谷 慈伸)

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