トランプ新政権 (2024年12月版)
2024年の米大統領選挙は、共和党トランプ候補の完全勝利で返り咲きが決まった。日本とは対照的に、上下院とも共和党が過半数を握るトリプルレッドとなり、政策実現への可能性が高まった。
政権交代は米国民による審判だが、過去10回の選挙では株価上昇率が10%を超す政権の敗北は珍しく、1年間にS&P500が約36%上昇した中での異例の結果となった。敗退したケースは、1980年のインフレと失業が大きく上昇した時で、今回はGDP(国内総生産)や失業率の数字は堅調だっただけに、有権者の不満と期待は従来とは違ったようである。敗因の一つに挙げられるのが、バイデン政権の物価高への対応の遅さとされ、インフレ調整後の収入低迷が長引いたことや、株高による恩恵が行き渡らず、逆に格差の存在を知らしめたことも要因のようだ。トランプ氏の勝利に対し、選挙結果を巡る混乱回避への安堵と、政策に掲げられた規制緩和と強化、そして減税への期待が市場の楽観ムードを後押しして、選挙後の株価は上昇を続けている。
選挙中に、言及した政策を確認してみたい。日本製も含めた全輸入品に10%〜20%の一律関税をかけ、以前から税率の高い中国製品は60%に引き上げるとする施策には、米製造業を安価な輸入品から保護する狙いがある。減税を補う政策の一つだが、大統領選を左右した激戦州7つのうち、3州が製造業の集積するラストベルト(赤錆地帯)であり、集票にも影響した公約であった。今後は、自動車や中国製品への関税引き上げが先行するとみられるが、関税は通常、輸出側ではなく輸入業者が支払うため、米国内の販売価格に転嫁される可能性が残る。中国製品だけに高い関税をかけたとしても、実際にはベトナムやメキシコなどを迂回して流入する公算や、相手国からの報復関税を招く場合も想定され、インフレ再燃と世界経済の減速の要因には注意したい。
2017年に成立したトランプ減税(減税・雇用法)のうち、来年末が期限の個人所得減税(最高税率を39.6%から37%に引き下げ、相続・贈与税の基礎控除の倍増)を恒久化する案は、共和党の伝統である減税と歳出削減の考え方に沿い、期限後の実質増税回避の狙いがある。延長されれば、景気へのマイナス影響免れるものの、財政赤字拡大の可能性は残る。
就任日に打ち出すと宣言するのが、バイデン政権が停止したエネルギー掘削の新規プロジェクトや、石油・ガス産業への連邦所有地リースの許認可である。埋蔵資源の多い東部ペンシルベニア州などの激戦州の集票と、石油・ガス掘削をインフレ対策と位置づけ、ガソリン価格が下がれば輸送費などを通じた広範囲の物価引き下げが可能と主張する。前政権の気候変動対策は後退し、国際的枠組み「パリ協定」再離脱も想定される中、クリーンエネルギー関連の補助金は減少を免れないだろう。
法人税減税は、現行21.0%の税率を米国内で製品を生産する企業に限り、15.0%に引き下げて国内への投資回帰を狙うものである。減税対象となる企業の認定方法など、制度策定には時間がかかる可能性もあるが、トリプルレッドとなれば、議会承認の公算は大きい。
そして、不法移民の国外退去である。コロナ禍後に急増した不法移民に不満を持つ国民の賛成票とともに、前政権の攻撃材料にした政策である。大量の送還は非現実的と考えられるうえ、コロナ禍後の米経済は移民が安価な働き手として人手不足の解消と賃金の抑制に貢献した面が大きい。従来通りの退去ペースであれば影響は軽微だが、働き手の減少となる場合、経済成長にマイナスに作用することは注意しておきたい。
政策とは別に、為替についても確認しておきたい。トランプ氏は、製造業の競争力低下を理由に通貨安を求めている。輸入品は関税引き上げで割高にする一方、輸出は自国通貨安で価格競争力を向上させる考え方である。実際には通貨安を誘導するのはFRBの金融政策であり、政策決定が政治圧力でゆがむ可能性は低いものの、パウエルFRB議長を再任しない意向を表明した過去もあり、こちらにも注意しておきたい。マーケットは、投開票でトランプ氏優位が伝えられた瞬間から逆に、ドル高・円安方向に動いており、いち早く今後のインフレと財政悪化を見込む動きを見せている。
政権始動の前に、株式市場は楽観に包まれている状況だが、第2次トランプ政権は、独裁色を強める可能性も高い。今後の動きには注意すべきだろう。
追記:11/25トランプ氏はSNSで、就任初日に中国に10%の追加関税とメキシコ、カナダに25%の関税を課すことを表明した。
(戸谷 慈伸)