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日本企業の変遷と今後 (2024年5月版)

日本株は、決算発表シーズン到来を前に、中東情勢や中国GDPの報道をきっかけにして、春の嵐の如き調整となった。だが、年初からの騰勢からすれば然るべきであり、34年間の彷徨から脱け出して新スタートを切ったばかりと考えたい。

 

この30年余を振り返れば、1990年代の日本企業は、バブル崩壊とともに売上高が伸び悩む中、人件費や設備投資を抑えた経営で、利益を確保する動きが主流となっていた。個別企業にとって、コストカットは合理的な選択肢だが、経済的には労働所得や投資の伸び悩みとなり、売上高や景気が停滞する悪循環の要因となった。

 

そして大企業は、海外に活路を求め直接投資を積極化して海外での収益確保に動いた。コスト面で競争力がある新興国や、最終消費地の近隣に生産拠点を移転することで利益を拡大したが、利益のおよそ半分が現地で再投資されたため、国内の賃金や設備投資には十分結びつくことはなかった。

 

2000年以降の大企業は、利益の拡大を伴いながら海外からの配当金や内部留保が増加、配当金は設備投資を上回るほど膨らんだ。並行して、企業の資金調達手段も外部調達より内部調達が中心となり、国内への投資機会は減少したままだった。この時代でも、国内のヒト・モノ・カネの動きは停滞し、循環は機能しなかった。

 

そうして続いた海外進出も、2010年代後半あたりから、取り巻く環境の変化とともに変わり始めた。中国やアジア新興国等では成⾧率の鈍化が始まり、半導体等の米中対立の深刻化やコロナ禍での部品供給停滞によるサプライチェーンの見直し、そして、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢緊迫化などの地政学リスクの高まりを背景に、国内事業の重要性を見直す姿勢へと転換、傾斜し始めた。

 

2020年代に入り、資源高や円安進展を背景に企業の仕入価格が上昇、販売価格への転嫁を開始した。日本ではこれまで支配的だった、「物価は上がらない」との経済への認識にも変化の兆しが見え始めた。並行して、株価の上昇もこのころから始まったと考えられ、日本銀行のマイナス金利政策廃止と利上げは、その転換を公式にも表明したといえる。

 

現在は、団塊世代のリタイヤの流れを背景にした企業の人手不足が拡大しており、大企業やサービス業ではコロナ禍以後、一段と不足感が強まる傾向にある。大企業が過去最高の収益を上げる中で人手不足が続く見通しから、大幅な賃上げやDX化、省力化のための設備投資が急がれている。とりわけ上場企業は、ステークホルダーや取引所からの資本効率化要請も強まる傾向にあり、それに応える必要性も大きくなっている。

 

そんな中、日本企業の動きとして注目される点は、内外のシェア拡大や事業再編を目的としたM&A(合併&買収)の増加と、非製造業の建設、卸売、小売業などの省力化投資の増加である。元々、売上高を伸ばすには、数量を伸ばすか、単価を上げるかの2通りだが、数量は景気動向の影響が大きく、デフレといわれた時代は、単価を引き下げて数量を押し上げる企業が多く見受けられた。しかし、人員確保の賃上げで人件費増加が不可避の今、コスト増を価格転嫁しても数量が落ちないよう、付加価値の高い商品やサービスを開発し、生産するスタンスが必要と考えられている。賃上げによる人件費増加は、大企業に比べ人件費率の高い中小の利益率を押し下げる要因となりかねない。さらに、高スキル労働者の確保や人的資本投資、設備投資による生産性向上等の可否で、将来的には企業が二極化する可能性がある。先進国の中でも日本は、創業者の少なさや価値観の違いなどの様々な要因によって、開業や廃業の割合が低く企業の新陳代謝が遅いといわれている。しかしこれからは、企業の積極的な行動で代謝が進み、労働力やノウハウなどの経営資源が円滑に移動することによる生産性向上が期待される。その動きを後押しするには、時代が進むとともに増加する後継者不足による倒産や廃業する前に、国の後押しも仰ぎながら事業再生やM&A、事業承継支援等で再編を進め、生産性向上を目指す体制が必要と考えられる。

 

日本企業の今後は、生産性向上や規模拡大ができる企業とできない企業、もしくは、する側とされる側の立場が鮮明になり、企業間格差の拡大や淘汰されることが予想される。上場企業をはじめ、日本企業が1社でも多く世界で台頭する時代となることが期待される。

 

(戸谷 慈伸)

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