2024年問題 (2023年8月版)
景気の軟着陸と利上げ終了を見込んだ米国株高のなか、日本株は金融政策の修正観測に一喜一憂しながら足踏む展開が続いている。
2019年4月、働き方改革の一環で労働基準法が改正され、時間外労働の上限が設けられたことをご記憶の方も多いだろう。そんな中、来年3月をもって建設、運輸、医療の3分野の規制の猶予が終了となる。とりわけ懸念されるのが、物流業界のドライバーへの規制であり、注視すべき問題と考えられる。
現状の運送会社において残業が減ることは、仕事離れや人手不足を引き起こす要因となる。また荷主側にとっても、従来可能だった長距離輸送が困難になり、運賃が値上がりする可能性が考えられる。岸田首相は、3月の参院予算委員会において、物流の2024年問題に横断的な対策の必要性を示唆している。
猶予終了後、運転業務の時間外労働の上限は、36協定(労働基準法36条)が合意された場合、年960時間(1ヵ月当たり約80時間)となる。また、中小企業に対しても月60時間超の時間外労働への割増賃金引上げが適用される。従来から時間外労働に対し、原則25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられており、大企業は50%以上の支払い義務があった。働き方改革関連法により、中小企業も時間外労働が月60時間を超えた場合、50%以上の割増賃金の支払い義務が適用されることとなる。すなわち、人件費上昇の要因となり、残業の多い物流中小企業への収益減少のインパクトは、大きいと考えられる。そのほか、勤務間のインターバル制度の変更も実施される。インターバル制度とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に「一定時間以上の休息時間」を確保する制度で、業界運転手の場合は8時間以上の確保が必要とされてきたが、4月以降は「継続11時間以上を基本とし、9時間を下回らない」よう改正されている。ドライバーの時間外労働の減少は、労働環境を改善し、健康管理の点では望ましいが、長時間働けない分、物流停滞の可能性が考えられるだろう。
まず業界が取り組むべき課題として考えられているのが、ドライバー不足への対応である。リサーチ会社のアンケート調査では、現状でも運送業者の約8割が人手不足と回答しており、労働条件や環境の見直しは、必須となりそうだ。厚労省の「賃金構造基本統計調査」によれば、トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比較して大型トラック運転者で約5%、中小型トラック運転者で約12%低い水準で推移している。時間外労働の上限措置により残業代減少と、賃金低下が予想されるなかで、事業者は人手不足によるドライバーを確保しなければならない。ドライバーの離職増加を防ぎ、定着させるためにも、給与体系の見直しや労働環境改善による人手確保が重要なカギとなるだろう。
一方、業界では一人あたりの労働時間減少を補うため、輸送の効率化が不可欠と考えられる。長時間労働の要因には、積荷の待機時間を減らすことや空車率の引き下げ、標準的運賃や燃料費の上昇コストを料金に反映できるよう、荷主と話し合うことが必要になる。
現在も業者単位の輸送の効率化やトラック運転手等の人材確保の取り組みは、進められている。輸送の条件や方法の見直し、待ち時間や荷役時間の削減などが検討され、納品日を1日延長したり、運転手の夜間運転や仕分け作業の軽減など、労働環境の改善と作業効率の向上が図られている。
また、輸送方法にも車両の大型化が推進されており、高速道路などの長距離幹線輸送区間を連結したダブル連結トラックを運行し、切り離し拠点からは2台に分かれて別々の納品先へ向かう試みも始まっている。同時にこの試みは、積載率向上やCO2削減効果も期待されている。
2024年問題への取り組みは、今後一層本格化するだろう。しかし、業者単位での取り組みや不確定な点も多く、自動運転やドローンによる省人化、無人化も期待されてはいるが、実装には時間がかかりそうで、抜本的な解決には至っていない。現状、トラック輸送のドライバーの約4割が50歳以上と推測され、運転手の担い手として女性の採用や、外国人技能実習制度にトラック運転手も適用するなどの担い手不足解消が重要と考えられる。
日本の物流問題は、経済活動全般に関わる社会問題として、官民を挙げた対応が必要と考えられる。今後の動きに注目したい。
(戸谷 慈伸)