議論が必要な少子化対策 (2023年7月版)
日本の株式市場は、バブル時の最高値を意識した新しい景色に立っている。高値への期待とともに、リバランス(投資配分や銘柄の見直し)も交えながら相場には臨みたい。
「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の原案が、閣議決定された。「新しい資本主義」の加速にむけ、構造的な賃上げや、人への投資強化などが盛り込まれるなか、注目したいのは少子化対策である。足元では保育所の整備や、育休給付の充実などの対策も進んでいるが、経済や家計の不安を取り除くには至っていないのが今の状況である。
昨年も小紙で取り上げたが、2022年の合計特殊出生率(女性一人が生涯に産む子供の数)は、1.26と過去最低水準に低下した。新型コロナ禍での婚姻数低迷もあって、7年連続の低下となり、少子化は想定を超えるスピードで進んでいる。同出生数は、77万747人と1899年以降の統計では過去最少となり、7年前の100万5,721人から23.4%の減少となっている。同時に人口減少(16年連続)も進んでおり、昨年は79万8,214人 (自然減)の減少と過去最大を記録し、こちらも想定を超える。今後は、人口減による労働力の低下が避けられそうもない。ある調査では、現在約 6,900 万人の労働力人口は、年間約 50 万人ペースで減少し、日本の経済活力に危機が訪れると推測されている。松野官房長官は、「静かなる有事として認識すべき」で、「日本の社会機能維持に関わる先送りできない課題」と懸念を表明する。岸田首相は、出生率の低下を反転させるには、若者の所得増が必要と強調、児童手当拡充を表明した。しかし、拡充の課題として残るのが安定財源の確保である。
少子化対策には、恒久的な財源の確保が必要と考えられる。政府は以前より、基礎的財政収支の観点から新規の国債発行増額については否定しており、来年10月からの子供手当には特定財源の「子ども特例公債」の発行が検討されるが、財源は28年度までに確保すると記すにとどめている。
財源として浮上しているのが、社会保険料への上乗せである。だが、社会保険制度は目的に応じて受給者が保険料を支払うことで成立しており、目的の異なる少子化対策に利用されることには時間をかけた議論が必要と考えられる。
つぎに、チャットボットで利用される質問への回答・質疑応答である。概念的な質問への回答をはじめ、やりとりを踏まえながら質問を繰り返すことでより適切な回答を行う。
原案では、若年・子育て世代の所得増加が、少子化を反転させる重要な要素と位置づけられ、今回の柱である児童手当の拡充が解決の近道とされた。そのほか、出産費用への保険適用や、誰もが時間単位等で柔軟に利用できる通園制度の導入、育休給付率の引き上げなどが盛り込まれ、出世払いの奨学金制度や貧困・虐待対策、障害児・医療的ケア児の支援など幅広い検討がなされている。しかし、過去に実施された児童手当の拡充等の対策で、出生率が反転上昇していない事実についても、十分に検証する必要があるだろう。
少子化対策については、中身、規模、財源を同時に議論し、国民との合意形成を探ることが必要ではないか。予算規模ありきの決定よりも、児童手当の拡充や少子化対策全体を再度見直し、児童手当の拡充がどの程度出生率の上昇に効果があるかを検証すべきであろう。たとえば高所得水準の世帯への手当ては、予算規模を大きくするものの、出生率向上の効果は小さいことが予想される。
近い将来の所得増加とともに、中長期にわたる成長と生活改善への期待感や安心感が、出生率に影響を与えると考えられるのではないだろうか。中長期的な成長率を高める戦略の推進を並行して実施することが、対策上には不可欠と考えられる。出生率の向上が、潜在的な成長率と中長期の成長期待を高める好循環になり得る一方、向上しない場合には悪循環に陥る場合にも注意したい。少子化対策が、経済、社会の安定に最も重要な政策の一つであることは疑いがない。ただし、将来世代への転嫁となる赤字国債で賄うことや、中長期の成長期待を低下させたうえ、出生率に悪影響を与える政策や財源確保にならぬことが望まれる。
以上の点を踏まえ、今回の少子化対策自体が現役世代の負担で賄うべき点が多く、男性の育休制度など社会の仕組み全体を再考すべき点も多い。実施スピードを上げることも大切だが、少子化対策の重要性を国民の間でも深く議論すべきであり、財源確保や望ましい予算規模、内容などの最適解はそこから見えてくるのではないか。
(戸谷 慈伸)