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新年度の株式市場 (2023年5月版)

先月の日経平均は、世界の金融不安の懸念の和らぐなか、昨年以来の8営業日連続上昇で年初来高値を更新した。今月号は、新年度入りした株式市場の見通しを考察してみたい。

 

米国株式市場は、年初からの金融引き締め打ち止め観測を背景に、グロース(成長)株に資金が回帰する展開が続いていた。一方、日本は東証の1月末の文書で、継続的なPBR(株価純資産倍率)1.0倍割れ企業に対する資本効率の改善や、必要な情報開示要請の意向を背景に、バリュー(割安)株物色の流れが続いている。

 

東証の要請は、資本コストや株価を意識した経営を促すもので、指標を基準に資本収益性や目標設定などの分かりやすい開示計画や、昨年の区分見直し時の上場基準の経過措置期限の設定などが検討されている。このほかにも、最低投資単位を50万円未満に引き下げる要請を最低投資単位100万円超の企業に対して、改善を呼びかけている。個人投資家が買いやすくなるよう投資単位を引き下げるには、株式分割が必要であり、実施済み企業もある中、分割を検討する企業も存在し、株価上昇要因の1つにとらえられている。

 

PBR1.0倍を回復するには、分子を大きくする株価上昇か、分母のBPS(一株当たり純資産)を小さくする資本圧縮がある。積極的な企業は、いち早く自社株買いや増配、ROE(自己資本利益率)目標などを表明し、実際の改善を待たずに株価が上昇する例も散見される。こうした背景から、PBRを尺度にした相場がこの数カ月続いているが、市場には業績好調な銘柄を物色する動きも出始めている。コロナ前の経済に戻ることで、物色のすそ野が広がり、上値をどこまで目指せるかに注目したい。

 

米欧のリセッション(景気後退)同様に、3月の日銀短観、大企業・製造業の業況判断指数は、5四半期連続の悪化であった。そんな中だが、株式市場の中国の景気回復に対する期待感は強い。ゼロコロナ政策の転換に伴い、経済再開が本格化すれば、日本企業の中でも売上高に占める中国比率の高い企業は、恩恵を受けることが期待できるためである。中国国家統計局発表の3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、51.9と3カ月連続で節目の50を上回っており、経済活動は正常化に向かっている。2023年3月期の決算では、中国市場関連は不振に苦しめられたが、今期はPMIが好況を示す間は現状の予想利益への上乗せ分が織り込まれていないと想定でき、素材、電気機器、機械などのセクターへの物色が期待される。特にゼロコロナからの転換により、家電、衣類、化粧品といった最終消費財への恩恵が期待される。ただ、7月に施行が予定される先端半導体向け製造装置の輸出規制措置をはじめ、半導体やスマホなどの固有の市場サイクルを持つ業種の反発は、限定的な場合もあり注意すべきであろう。また、市場拡大が続く電気自動車(EV)も、中国国内の需要取り込み競争が激化するなか、中国政府のレアアースの磁石技術の輸出禁止の検討もされており、油断は禁物である。

 

マスク着用義務がなくなり、国際的な往来再開とともに水際措置が終了された。コロナ禍からの回復に出遅れた日本だったが、G7サミット(主要7カ国首脳会議)開催国として、今年度はコロナ前の水準を回復する見通しである。国内では、過去3年にわたり手控えられてきた観光・レジャー需要の復活と、関連企業の恩恵と効果を期待する声は大きい。同時に、インバウンド(訪日外国人)消費の復活も内需企業にとって好材料で、有望な投資対象と考えられる。日本政府観光局が発表した3月の訪日客は、181.7万人と20年1月以来の単月で150万人を超えた。このペースならば年間2000万人超に届き、インバウンド消費もコロナ前の約4.8兆円を上回る可能性もある。なかでも中国政府が、日本への団体旅行を許可した場合には、現状の回復にさらに弾みがつくとみられる。また、大阪府のカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)の開設計画が認定されたことも、株価の支援材料となりそうだ。

 

そして、先月来日した米著名投資家バフェット氏が来日の折、日本株への追加投資検討を表明しており、海外マネーの日本株投資に影響を及ぼす可能性も考えられる。

 

米欧の景気後退と金融不安の状況を横目にしつつ、今年度は底堅い日本株が海外の株価指数を上回る可能性に期待したい。

(戸谷 慈伸)

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