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今年の円安を振り返って (2022年12月版)

2022年10月、円・ドルの交換為替レートは、1990年8月以来、32年ぶりに1ドル150円を突破した。年初115円台からの25%近い下落は、半年間の値下がり幅では1998年以降では最も大きい。その後、140 円を挟む展開が続くが、円安観測は払拭されていない。では、なぜ円安になったのだろうか?

 

為替レートは、様々な要素で決まるといわれている。変動要因として、ファンダメンタルズ (経済の状況や金融政策の動向)、実需(企業の輸出入など実需に絡む外国為替取引)、政治・地政学(国ごとの政治的変化や紛争)、テクニカル・心理(チャートポイントや節目)などが絡み合い、相場が動くといわれている。今回の主因として挙げられるのは、金利差である。日米間の金融政策には方向性に違いがあり、FRB (連邦準備制度理事会)  が高インフレを抑えようとかつてないペースで利上げを進めるのに対し、日銀はゼロ金利政策の方針を堅持している。米国は20年3月から続けてきたゼロ金利政策を解除し、今年3月に政策金利の引き上げを開始、段階的な引き上げで現在では3.75~4.00%なっている。先進国の中央銀行が引き締めに向かうなか、日銀は当座預金のうち政策金利残高に-0.1%の金利を適用し、10年物国債がゼロ%程度で推移するよう国債を買い入れるなどの金融政策を継続している。

 

従来、円安の影響には功罪両面があるものの、日本経済にはプラス効果の方が大きいとみなされてきた。輸出数量を増やし、海外事業収益が企業にプラス効果が働くためである。しかし今回は以前とトーンが違っており、近年は新興国との物価や賃金の内外格差は縮まり、実質賃金水準では韓国を下回るなど、マイナス面を指摘する声が増えている。

 

背景の一つには、貿易収支の赤字基調への転換もあると思われる。貿易赤字は、輸出面のメリットを輸入のデメリットが上回ることを意味し、ここ数年輸出数量が伸び悩むなか、原油価格上昇をはじめとした資源高や、震災後の原発稼働率低下による化石燃料の輸入増加が赤字化の影響を増幅したことが考えられる。かつて貿易産業が活躍した日本企業は、円安局面では円建て価格を据え置きながら、輸出数量を増やす戦略を採用してきた。しかし近年は、製造業の海外移転とともに、輸出競争力の低下が指摘され、輸出大国と並び称されてきた日本の世界輸出に占めるシェアは、ドイツが維持する一方で低下傾向を辿り、足元では韓国との差も縮小している。今後、「円安進行→原材料高による値上げ→交易条件悪化・実質賃金減少→貿易赤字拡大→円安進行」の負の連鎖が、定着する可能性も潜む。解決には、要因として考えられる金利差の解消とともに貿易収支の改善も必要ではないだろうか。貿易収支の改善には、輸入を減らして輸出を増やせばよいわけだが、再生可能エネルギーの普及を前提に、輸入の大きなウエイトを占める化石燃料の輸入を減らすことが、方策のひとつである。改善の手立てとして、エネルギーの構造改革が実施されれば、化石燃料の輸入を減らし、時間をかけながらも貿易収支の改善効果は期待できると考えられる。

 

そして、今回の大きな要因とされる金利差拡大を止めるには、金融緩和政策に終止符を打つことである。市場では、低金利政策の維持を見越した円安が進んでおり、イールドカーブコントロールの終了、市場金利上昇を容認すれば米国のインフレ動向に左右されることなく、円安傾向に歯止めがかかるとみられる。アベノミクス開始以来続けられた低金利政策の修正は、避けられない道と思われる。当然、日銀の国債の保有の継続とともに、金利上昇を緩やかにとどめる必要性は残る。併せて、自然増収・歳出合理化・増税を組み合わせた財政健全化の道筋を政府が示すことが不可欠な前提条件であり、健全化のための名目成長率の回復と、名目賃金の持続的な上昇が必要になるであろう。

 

円安をメリットとして活かすためにも、政治がリーダーシップを取りながら国民の合意形成につとめ、方向性を示す必要がある。米インフレ率の低下により、円安は落ち着きはじめた今、将来に向けた議論を急ぐべきではないか。

(戸谷 慈伸)

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