人口減少と経済 (2022年8月版)
7月8日安倍元首相が、凶弾に倒れ亡くなられた。憲政史上最長の首相として、卓越したリーダーシップと行動力で、経済、外交、安全保障をはじめ、数々の功績で世界における日本の存在感を高めた。経済政策では「アベノミクス」によって景気回復を後押しし、在任中に日経平均株価は約2.3倍、正社員有効求人倍率は1.16倍に上昇した。衷心よりご冥福をお祈りするとともに、哀悼の意を表したい。
6月に発表された厚生労働省の人口動態統計によれば、2021年の出生数は81万1,604人(前年比2万9,231人減)と6年連続で過去最少を更新した。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、80万人を下回るのは2030年としているが、今年にも下回る可能性がないとはいえない。1997年120万人を下回ってから100万人を下回るまで19年かかったが、今年で下回ることとなれば6年しかかからなかったことになる。合計特殊出生率も1.30と2015年の1.45から6年連続で低下しており、コロナ禍が結婚・出産にマイナスの影響を及ぼしたとはいえ、少子化のスピードが加速していることは明らかである。死亡数は143万9,809人(前年比6万7,054人増)で、出生数から死亡数を引いた人口の自然減は62万8,205人と過去最大の減少となった。おおよそ鳥取県(人口約55万人)や、島根県(人口約66万人)規模の人口が減少したイメージである。
3年後の2025 年に 65 歳以上人口の全人口に占める割合は、30%を超えると予測されており、人口分布の多い1947 ~ 50 年生まれの団塊世代約 800 万人が 75 歳を迎え、後期高齢者となる。一方で、15 歳から 64 歳までの生産年齢人口は 2015 年以降で合計約 550 万人減少し、 同年には 7,170 万人となり、総人口に占める割合は58.5%に減る予想である。
5月、テスラCEOのイーロン・マスク氏がSNSに、「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」とツィートし話題になったが、かつては人口減少の将来像を想像することは希薄であったといえる。問題は、人口減少の加速に止まらず、経済および国力低下の要因となることである。人口減は、投資の減少と国力の衰退、ならびに資本の国外流出を招く可能性につながる。また、高齢化による医療・介護費用の増加と同時に、現役世代への負担増加が不満へ変わる可能性を秘める。
社会保障の根幹である年金制度は、現役世代から国民年金や厚生年金の名目で徴収した保険料が年金として高齢者に支払われている。少子高齢化により徴収した保険料だけでは補えない昨今は、現役世代の年金保険料率や支給開始年齢の引き上げ、および減額でカバーされている。また保険制度も、自己負担額を抑え、年齢によるものの1割~3割の負担額で病気や怪我の治療を受けることができる。ちなみに政府一般歳出のうち、令和4年度の社会保障費は53.8%(36兆2,735億円)、22年前の平成12年度の34.9%(16兆7,666億円)に比較して増加の一途である。21年度の歳出総額は、補正予算を含め142兆円(107兆円の一般会計予算と35兆円の補正予算)超と過去最大規模に膨らんだ。税収も67兆円(うち基幹3税は法人税13.6兆円、所得税21.4兆円、消費税21.9兆円)と最高とはいえ、充足はしていない。
話を戻すが、経済活動は労働力人口に左右されるといっても過言ではない。人口減少による国内市場の縮小は、投資先としての魅力を低下させてしまう。現段階では、官民挙げてワーク・ライフ・バランスの改善に取り組むものの、少子化の流れを断ち切るには至っていない。需要と供給の両面では、負の相乗効果が作用し、経済活動の縮小につながる。また、地方から大都市圏への人口移動が現状のまま推移した場合、地方圏を中心に4分の1以上の自治体で行政機能の維持が困難になるともいわれており、多数の高齢者が資産はあっても医療・介護の受け入れ先が不足する事態をも招きかねない。
現段階では、少子化対策によって減少のスピードを緩和することは可能であっても、流れを止めることが難しい。子孫に美しく伝統ある故郷、希望にあふれ誇りある日本を引き渡したいと願った故安倍元首相の思いがかなうには、社会全体の意識や行動を変わるような仕組み作りが必要かもしれない。
(戸谷 慈伸)