昨今電気自動車(EV)事情 (2022年2月版)
今年に入り変異株の急速な拡大と、インフレを懸念した米金融引き締めが、株式市場を大きく揺り動かしている。今後は、感染の収束と、金利上昇の見極めが重要と考えられる。
世界的に脱炭素社会実現に向けた動きが加速し始めた。自動車業界では、脱ガソリン、ディーゼル車を掲げ、電気自動車(以下EV)へとシフトする動きが活発化している。EVは、走行中に二酸化炭素を排出しないことが開発の背景にあり、米調査機関では、ハイブリッドやプラグインハイブリッド、燃料電池車(以下FCV)を含めた世界の新車販売台数に占めるシェアは、2030年にはガソリン車を上回ると予想している。
各国が脱炭素に向けた目標を掲げるとともに、メーカー側もEVへのシフトが急がれる。独メルセデスベンツは30年、フォルクスワーゲンは33~35年をめどに欧州でのエンジン車生産を終了し、全新車販売をEVやFCVに移行する方針を示している。中国では2018年よりNEV (ニュー・エナジー・ビークル) 規制(=年間1万台以上生産・販売するメーカー、輸入業者への一定台数のNEV販売義務)を課し、ナンバー発給規制地域での優先的発給で普及、促進を目指している。昨年から50万円を切る小型EVだけでなく、中級以上の売行きが伸びており、中国製EVトラックは、佐川急便などが輸入に踏み切っている。昨年のEV新車販売は、291万台と過去最高を更新した。米国はテスラモーターが先行する中、GMは35年をめどに、フォードは初のEVを発表している。日本でもトヨタ、ホンダ、日産の各社を中心として開発が急がれている。異業種からの参入も表面化しており、先月にはソニーグループが試作車を公開、事業化の検討を開始した。また、米IT大手アップルや台湾鴻海精密にも参入観測が浮上しており、自動車産業は、まさに「100年に一度」の大変革の時代に突入したといえる。
そんな中、世界販売首位のトヨタ自動車は、EVの世界販売台数の30年350万台目標を発表、従来のFCVと合わせ200万台としていた目標を大幅に引き上げた。約30車種のフルラインアップで、高級車ブランド「レクサス」は30年までに欧米、中国でEV比率を100%、35年に世界で100%とする目標を掲げる。年内にも初の量産型を世界発売する予定で、今後、EV向けに4兆円規模の投資を実施、うち約半分をバッテリー向けに行う。トヨタは、脱炭素の流れに経営資源の重点を置くことで、先行する欧米や中国勢との競争に立ち向かう姿勢を明確に示した。
現状、国内のEVは10年以上が経過しても、普及が進んでいるとは言い難い。2020年の年間EV新車販売台数は、約1万5000台と全体の約0.6%に過ぎない。要因には、バッテリーの充電設備のインフラをはじめ、車体価格、航続距離など様々な課題が考えられるとともに、日本の電力供給事情ではEVが本当にエコなのか?という疑念も根底には残る。今後は、一層の官民を挙げたEVへの協力体制が必要になると考えられる。
カギとなる充電インフラの普及促進策は、一昨年よりインフラ整備事業費補助金がマンション、事務所、工場、商業・宿泊施設、高速道路SA・PAなどへの設置を対象に設けられた。しかし、その他の車体価格を押し上げるEV用電池の価格や、充電時間、航続距離の問題など、解決すべき点は残る。また、電力ピーク時の供給量不足の可能性も考慮しなければならない。日本の電力は、再生可能エネルギー使用を除く70%以上が火力発電によって作られたものであり、単に推進するだけでなく、並行して再生可能エネルギーへの転換がなければ、脱炭素社会の実現は遠い。
そして、従来型自動車産業の見直しが、必然となる問題も解決しなくてはならない。EVの普及とともに、約3万点におよぶガソリン車の部品のうち、およそ4割が不要になることが想定されている。当然、各社は業態転換に取り組むが、展開次第では、業績や企業の存亡にも大きな影響をおよぼすと思われる。
EVの普及とともに今後10年で自動車業界は、大きく変わると推測される。進展を見極めつつ、選別した投資が必要であろう。
(戸谷 慈伸)