水素ビジネスに注目 (2021年11月版)
中国恒⼤集団、⽶国インフレ懸念などの海外要因や、総選挙後の行方を見極める動きに終始した⽇本株は、調整を余儀なくされた。11月は、仕切り直しの展開を想定したい。
今年のノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏が選出された。授賞理由は、地球温暖化を確実に予測する気候モデルの開発で、大気中の二酸化炭素(以下CO2)濃度の上昇が地表の温度上昇につながることを立証した(量が2倍なると気温が2.3度上昇と試算)。同氏の研究が、脱炭素化をめぐる発端となり、世界で温暖化研究が進む契機となった。
英グラスゴーにて、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)26が開催されている。議題は、2015年のパリ協定実施に必要なルールの合意や、市場メカニズムに関するルール及び、透明性のある枠組みづくりなどである。協定締約国は、世界の平均気温上昇を2℃より低く保つ努力を追求するため、今世紀中に温室効果ガス排出量の実質ゼロ達成で合意している。日本も昨年、「2050年温室効果ガスの排出実質ゼロ」宣言をした後の会議だけに注目したい。
実質ゼロ、カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となるCO2排出量抑制のための概念である。人の生産によるCO2排出量と、植物の光合成などの吸収量を同量にし、実質的な排出量をゼロにするのが基本的な考え方だ。CO2は主に石油、石炭などの化石燃料がエネルギーを作る際に排出されており、産業革命以降増加を続けている。
このカーボンニュートラルにおいて、注目されるのが水素である。水素はエネルギー効率が高く、熱エネルギーとして使用する際にも、CO2は発生しない。水素は製造方法によって、3つに分類されている。注目は再生可能エネルギー電力(風力・太陽光等)を用い、水を分解し製造するグリーン水素である。一方、化石燃料を分解して製造し、発生するCO2を大気中に排出するのがグレー水素で、発生するCO2を回収、地中に貯蓄するのがブルー水素である。現時点では世界で生産される水素の殆どがグレー水素だが、将来的にはグリーン水素とブルー水素に置き換わると推測されている。これまでは燃料電池自動車や、発電が主な用途と考えられてきた。だが今後は、水素還元製鉄や、民生・工業熱利用、発電用燃料としてのアンモニアへの変換、回収したCO2を再利用する合成燃料、プラスチック原料等の基幹化学品など、燃料および原料として幅広い用途への展開が期待されている。
日本では、経済産業省が戦略として、水素を幅広い可能性を秘めるキーテクノロジーとして位置づけており、民間企業向けに、技術開発から社会実装までを支援する基金が設立されている。海外でも昨年、欧州は水素戦略を発表、米国でも9年ぶりに新水素プログラム計画を発表しており、中国も2060年までのカーボンニュートラルの達成と、関連技術開発への支援を表明している。今後は、大手企業同士の提携や、温室効果ガスを排出する業界のビジネスモデルに大きな変化が訪れることになりそうである。
水素ビジネスは、大きく製造、運搬・貯蔵、使用の3つに分類される。製造は、プラントや水素製造に向けたクリーンな動力源となる再生可能エネルギー関連である。運搬・貯蔵は、輸送用パイプラインや貯蔵用水素ステーションなどのインフラ関連。また使用は、自動車・バス、水素発電所など水素を活用した商品、サービス関連をさす。これら3つの分野とも、イノベーションが期待され、新たな収益機会が見込まれている。しかし、現時点ではコスト面からみて、先行投資の段階にすぎないことも事実であり、化石燃料に依存する社会が、突然、水素社会になるわけではない。水素関連への投資は、長期的な視野をもつことも必要である。
脱炭素の切り札といわれる水素への取り組みは、今後のエネルギーの世界を変えるポテンシャルを大いに秘める。今後、実現に向けた動きが活発化することが予想されるが、燃料電池をはじめ水素の技術開発において、日本が先行しているといわれるだけに、今後の動向に注目したい。
(戸谷 慈伸)