デジタル庁発足に期待 (2021年10月版)
菅総理の不出馬を受け、日経平均株価は約5か月ぶりに3万円台を回復、TOPIXは上場来高値を更新した。新政権への期待とともに、世界的にも出遅れ感が強かったことや企業業績の改善が背景として浮かぶ。
9月、行政の様々な手続きを減らし、簡素化をめざすデジタル庁が発足した。菅総理が就任直後、行政の縦割り打破をめざし新設を表明、1年足らずでの発足となった。
政府のIT戦略は、2000年のIT基本法、e-Japan戦略に遡る。当時は、すべての国民がITメリットを享受できる社会と、5年以内の世界最先端のIT国家が目標に掲げられた。13年、司令塔として政府CIOが設置されたが、重要分野をまたぐIDや認証等もなく、権限も各府省の施策の調整に限られていた。結果、改革実行に必要な運営資源を整備することが、かなわなかった。国民の機運も高まらず、運営の効率化や国民の利便性を向上させる仕組み構築もないまま月日が過ぎることとなった。20年の国連の電子政府ランキングでは、日本は14位へと後退している。
今回の発足には施策推進のため、首相直結による必要な権限と体制が付与された。背景には新型コロナウイルス感染症への対応が、日本のデジタル化の遅れを浮き彫りとしたことも影響している。国民に10万円を配った特別給付金では、マイナンバーカードを使用したオンライン申請の受付が、本人確認作業に時間を費やした。また、感染者数のデータ収集や、小中学校でのオンライン授業の対応遅れなど、非デジタルな状況が明らかとなった。
官邸ホームページには、デジタル改革が8つ(①デジタル庁創設、②行政のデジタル化、③規制改革、④公務員のデジタル職採用、⑤マイナンバーカード、⑥教育のデジタル化、⑦テレワーク、⑧携帯電話の料金の引下げ)、挙げられている。今回政府が目指すデジタル改革は、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」が目標で、改革への思いは強い。5月通過のデジタル改革関連法案は、異例の速さで成立されている。
そんな中、政府が描くデジタル社会の実現に必要不可欠と考えられるのが、マイナンバーカードの普及である。マイナンバーとは、社会保障・税番号で、全ての国内居住者に割り当てられた12桁の固有番号である。マイナンバーカードの普及率は30%を超えたものの、22年度末までに全国民が保有する目標にはかなり遠い。普及率が高ければ、濃厚接触を確認できる厚労省のスマホアプリ「COCOA」や、給付金支給も速やかに実施可能であったと考えられる。また今後には、健康保険証や運転免許証との連携の実現が早急に望まれる。ほかにも今回の法案では、マイナンバーカードの証明書機能をスマホへ搭載することを可能にした。22年以降、順次スマホでの本人確認が可能となり、確定申告など行政の手続きや、銀行口座の開設、携帯電話申込みなど民間サービスも実施の予定である。今後のデジタル庁主導の行政手続きのオンライン化は、民間を含めた利活用範囲の拡大や、利便性の抜本的向上が期待できる。利用増加によって、国民一人一人が利便性の実感できるようになれば、デジタル改革の実現は早くなる。改革によって、マイナンバーの真価も試されよう。
明治初期や戦後日本が世界に追いついたように、デジタル改革も、日本が一丸となれば遅れを取り戻すことは十分可能である。政府が掲げる「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」の整備が、利便性の高い行政サービスに繋がってゆくだろう。韓国では97年通貨危機の際、「デジタル・ニューディール政策」を掲げ、国全体のDX化に成功。台湾では民間出身の担当相が、市民エンジニアと連携し、デジタル社会を実現している。先駆する海外の取組みも参考としたい。
デジタル社会実現は、前号の少子化による労働力減少の対策としても有用である。コロナ禍のピンチを、デジタル社会の実現に向けた千載一遇のチャンスと捉えるべきである。政権交代後も改革の司令塔として、デジタル庁のリーダーシップに期待したい。
(戸谷 慈伸)