温暖化対策のこれから (2021年7月版)
4月以降、日本株は欧米に比べ出遅れている。ワクチン接種で先駆する欧米の景況感改善が著しいのに対し、後れを取った日本が敬遠されたのは明白である。今後、接種の進展で経済回復が確かなものとなれば、先行する欧米への追随が期待される。
2050年温暖化ガス排出量の実質ゼロ目標を明記した、「改正地球温暖化対策推進法」が5月26日成立した(22年4月施行予定)。4月に政府は、30年度に13年度比46%削減も決定しているが、どちらも実現への道程は険しい。国、自治体、企業を中心に一丸となり、取り組む必要があると考えられる。
改正法案成立には、米バイデン政権のパリ協定復帰と、4月の気候変動サミットで各国が排出削減目標を相次ぎ打ち出し、積極化した背景がある。先月のG7でも50年までのゼロ目標や30年目標が共同宣言され、11月開催のCOP26(国連気候変動枠組み条約締結国会議)に向けた国際協調が確認された。各国首脳の中には取り組みを進めることで、温暖化対策と経済成長の両立を実現し、対策への投資や雇用創出に貢献できる経済再生策としても考えているようだ。今後は、中間時点の30年までの目標を国連に提出し、COP26で枠組み条約が話し合われることとなる。日本の具体策は近くまとめられるエネルギー基本計画や、地球温暖化対策計画に盛り込まれる予定だが、この目標は10年以内だけに技術革新をベースにしたプランは織り込みにくく、規制・ルールの見直しや再生エネルギーの導入促進といった対策に落ち着くものとみられる。
今回の改正には、自治体や企業の脱炭素に向けた取り組み状況を見えやすくする仕組みに重点が置かれている。まず都道府県および政令都市には、再生エネルギーの導入目標の設定と開示が義務付けられこととなった。現在、企業側にはCO₂排出量年3,000㌧以上の企業に国への報告と公開がネット上で実施されている。今後は事業所ごとの排出量まで閲覧可能とし、同一企業内での削減の競い合いや、自治体区域内での施策がとりやすくなるように改正された。ほか、導入を促進するため、区域を自治体が定め、環境アセスメント(影響評価)の手続きを簡素化するなど、参入障壁も下げられた。今後政府は、公共建築物への太陽光発電設備の設置を標準化、50%以上の設置を目指し、経産省は、中小事業者の送配電網への接続費用の軽減を目的に、地域間送電網の容量拡大を計画している。同時に資金支援策を含め、温暖化ガス排出量の多い7業種について脱炭素工程表を作成する。
既に欧州では炭素排出に対し価格を付けるカーボンプライシングを導入、個別企業の排出上限を定め、進展する企業と不足する企業間の排出枠を売買する排出権取引を行っている。排出量に応じて課税する炭素税の導入も開始されており、欧州委員会では対象事業者の排出量減少の効果を確認している。
わが国がカーボンニュートラル実現に取り組む意義は、大きい。流れに沿うだけではなく、日本の体質を変える強い推進力になると考えられ、積極的な取り組みを期待したい。そのためにも新技術の開発や、事業構造転換に対してインセンティブが働く仕組みも必要になると考えられる。欧州同様にカーボンプライシングや炭素税導入も、時間をかけつつ検討、導入することも重要となろう。炭素税は、民間事業者の負担コストが政府の収入となり、新産業や構造転換の円滑化に再投資する資金として循環することが期待できると考えられる。また、労働市場の柔軟性を高める効果も期待される。カーボンニュートラルの実現は、産業の体質改善のみではなく、社会全体の変革にもつながる。現在、DXに代表されるデジタル変革も渦中にあり、産業構造は大きく変わりつつある。雇用の受け皿も変わり、働く人々の意識とスキルが変わることが、構造改革につながってゆくだろう。
政府の主導は当然だが、世界の約3,000兆円にも上るESG投資や、国内企業の現預金を活用する投資対象としても魅力ある分野に育ててゆくべきと考えられる。
(戸谷 慈伸)