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コロナ後を見据えた増税の動き (2021年6月版)

日本株は、4月以降膠着感を強めている。連休明けの決算発表で、大幅な業績改善が確認されたものの、上値追いの展開を見せない。下落時の日銀ETF購入も影を潜め、ワクチン接種の進捗を見守る相場が続いている。

 

先進国間ではポストコロナを見据え、増税や新税の議論が始まっている。英国は、3月に大企業向け法人税率を19%から23年に25%に引き上げる方針を示した。EUも新課税構想として、環境規制の緩い国からの輸入品に対する国境炭素税や、プラスチック税の導入を検討、企業に対するデジタル課税強化を検討している。そして、米国バイデン政権は2.3兆ドル(約240兆円)のインフラ計画の財源として法人税改革プランを表明している。

 

法人税率引き下げの始まりは、英サッチャー、米レーガン両政権の時代であった。冷戦終結の 90 年代、旧東欧諸国が税率引き下げにより西側企業を誘致し雇用の拡大、経済活性化を図ったのを契機に、独・英・仏が引き留めるべく引き下げで対抗、その連鎖が流れを形成していった。最近では、トランプ政権時の35 %から21 %への大幅な引き下げが記憶に新しい。日本では、 80 年代の 40 %台から90 年代に30%台となり、現在の 23.2 %となった。これまでは、自国の競争力低下による海外への所得移転防止を目的にやむなき側面もあった。しかし、米欧を中心に税負担が軽くなることで、増加した資金の多くが設備投資よりも自社株買いなどの投資家還元に振り向き、富の分配が格差を広げる要因にもなったと考える声もある。国際的に最低税率引き上げの合意を目指す方向に舵を切ることは、潮流が大きく変わる転機として注目すべきであろう。

 

主役である米国の法人税改革プランには、①連邦法人税21%から28%への引き上げ。②20億ドル超所得の会社に対するミニマム税導入。③米国外軽課税無形資産所得合算課税の税率の引き上げ(10.5%⇒21%)。④他国との協調によるミニマム税導入。⑤化石燃料取扱い企業への税優遇廃止など、があげられた。今回の改革は、国内だけではなく、米企業の海外子会社への課税強化にも及び、トランプ政権下の税制を大幅に改正することとなる。共和党の反対も当然ながら、海外子会社への課税強化は、米国のみでは実現不可能であり改革プランには世界各国の協調が必要となる。3月末イエレン財務長官は、追加経済対策による財政出動を肯定し、税制改革が財源を賄い、「底辺への競争」と揶揄された世界的な法人税引き下げに終止符を打ち、最低税率の必要性と将来的な引き上げを呼び掛けた。4月のG20では、減税に歯止めをかける最低税率と、デジタル課税を一体として年央までに合意を目指すことが再確認されている。もし、世界標準の最低法人税率が実現すれば、企業が租税回避や国内回帰へ動く可能性もある。

 

GAFA と呼ばれる米IT企業の税負担は、伝統的産業にくらべ低いとされている。法人税等を税引前利益で割った税負担率では、GAFAの平均税負担率は、15%前後とみられている。一般的な税負担率は20%超と考えられるが、世界に展開するネット企業は、知的財産を低税率国の関係会社で持つことが多く、ライセンス料などの形で利益を集め、全体の税負担を減らしている。グーグル、アップル、フェイスブックは、欧州の拠点を税率12.5%のアイルランドに置いている。現行の税制では、支店などの施設を置かずに国境を越えたビジネスを展開するIT 企業の無形資産が生む利益よりも、工場などの有形資産生み出す利益を補足する傾向が強い。米国はG20において、GAFA 等への個別攻撃ではなく売上高や高利益率を持つ多国籍企業全般の利益に対して各国が国内の売上高に応じて課税する、という新たな提案を行なった。

 

コロナ禍後の財政の課題にバイデン政権は、高所得者への税負担を重くする所得税改正にも取り組むとも予想されている。「底辺への競争」が反転の兆しを見せる中、日本もワクチン接種を急ぎつつ、世界のコロナ禍後の財政健全化の動きを注視する必要がある。

 

(戸谷 慈伸)

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