東証市場区分移行について (2021年5月版)
米国では、高水準のISM製造業景況感指数や、予想以上の雇用統計など、NYダウ最高値を裏付ける指標の発表が相次いでいる。米連邦準備理事会(FRB)は、前回のFOMC(米連邦市場委員会)で景気見通しを、今年の成長率を6.5%と上方修正しながら雇用の改善の遅れを注視、2023年末までゼロ金利を維持する方針である。そうした中、日本の株式市場には変革の波が訪れる。
東京証券取引所(以下東証)は来年4月、現在の5つの市場区分を新しく3つの区分、プライム、スタンダード、グロースへの見直しを予定している。「東証1部」は「プライム」に、「東証2部」「JASDAQスタンダード」は「スタンダード」に、「JASDAQグロース」「マザーズ」は「グロース」へとそれぞれ改編、改称される予定である。
スケジュールは、東証が上場会社に対して、基準日(6/30)における数値を上場維持基準と照らし合わせ、暫定的な判定を実施、新市場区分の選択に際しての手続き・提出書類等を明示し、1か月内に通知を行う予定である。次に、9~12月の間に、上場会社が市場選択の手続きを行い、来年1月中に東証が新市場区分を公表、4月4日を一斉移行日(新市場区分への移行完了)の予定としている。
かつて東証1部は一流企業クラブと言われていたが、4月26日現在、1部の企業数は2,190社と90年以降で倍増し、最上位市場のブランド価値が相対的に低下しているのが現状である。社数の増加には、3つの要因が推察される。ひとつは、1部への直接新規上場には500億円以上の時価総額が条件であったが、12年に250億円以上に引き下げられた。次に、昨年10月まで、1部上場基準、1部指定基準、マザーズからの市場変更基準、上場廃止基準の各基準に違いがあり、2部やマザーズ経由なら40億円の時価総額で1部に上場することも可能であった。3つめは、上場廃止基準や、2部への指定替え基準(退出基準)が低い、などが考えられる。1部上場後は、時価総額が低くても上場維持が可能で、この3月現在、1部上場企業の約3割が時価総額250億円を割り込み、約4割強の株価純資産倍率が1倍を下回るなど、企業の質も問題視されている。また、1部上場は全てTOPIX(東証株価指数)に組み込まれるため、インデックス運用の資金が流入する弊害があり、実力以上の株価を演出しがちであった。
今回注目されるのは、新東証1部「プライム」市場への上場である。実質的な基準として、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、従来以上のコーポレートガバナンス、の3点が挙げられている。現在の構成銘柄は基本的にはそのままTOPIXに採用され、新たにプライム市場に上場する銘柄がTOPIXに追加される。そして来年10月末時点で流通時価総額100億円未満の銘柄は、23年10月末の再評価を挟んで、25年1月末を期限に削除の予定となる。
現在の浮動株基準は、上場株式数から大株主上位10位に掲載されない持ち合い株などが浮動株とみなされることが、問題点として指摘されており、今回の改正で海外投資家が一段と投資しやすい市場になることが大きな狙いとみられる。新制度での持ち合い株式は、以前より正確に把握されると考えられ、固定株増加を嫌い持ち合い解消が進めば、需給悪化による株価への悪影響が一時的に考えられる。その影響は、現時点でも基準を満たさない企業に対しては敬遠されやすくなっている。持ち合い解消により需給が弱含む企業の一方、中期計画や株主への積極的な情報開示で株価を意識する企業や、グループ戦略の見直しで、親会社などに吸収される会社なども散見されている。現段階では、来年4月終了の1部を継承するプライムにおいては、新しく組み入れられる企業が注目されそうである。コーポレートガバナンス改訂については、紙面の関係で省いたが、他の先進国市場に劣らない、投資マネーを呼び込む市場づくりや、投資家との対話を推進し、企業経営が洗練されたものとなるための市場改革が期待される。
今後も、先行きを見守っていきたい。
(戸谷 慈伸)