国内最大の大株主 (2021年3月版)
2月15日、日経平均株価が3万円の大台を30年半ぶりに上回った。年初は3万円を上限と見ていたが、世界的財政出動と金融緩和を底流にして、ワクチン接種と経済回復期待の高まりにより、予想以上のスピード展開となっている。
今回の上昇は以前と異なり、株高による恩恵が享受されず、景気との違和感を覚える個人投資家も多い。現在の個人持株比率は約10%半ばと低く、大株主は、外国人、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、そして日本銀行(日銀)が並ぶ。なかでもETF買い入れを開始して10年を迎えた日銀は、実質的に日本株の筆頭株主といわれており、改めて経過を辿ってみたい。
前例にない日銀のETF買い入れが開始されたのは2010年12月で、白川前日銀総裁が、5兆円の基金により「包括的金融緩和策」として導入、従来の国債のほか、買い入れ対象資産にETF、REITを新た追加したのが始まりであった。導入当初は年間4,500億円で始まり、金融緩和の3本柱である金利・量・質の原型がこの時に完成したといわれている。
第2次安倍政権発足後13年4月に黒田新体制となり、買い入れペースは倍増し、年間1兆円ペースまで引き上げられた。その後、2%の物価上昇率が期待通りとならず、14年10月3兆円に、16年7月前年から続く中国経済の減速に加え、英国のブレグジット(EU離脱)決定による金融市場混乱対処のため、6兆円に拡大された。そして20年3月、コロナ禍の株価急落への対応策として、時限的に12兆円へ倍増され、現在に至っている。
10年に及ぶ買い入れの結果、20年末時点で日銀が保有するETF残高は約35兆円(簿価ベース)に達している。日銀はETFの購入を信託銀行へ委託しているため、名目上、信託銀行が株主として表記されることになるが、影の存在として市場への影響は着実に高まった。現在の株価での保有時価は約47兆円と推定され、GPIFを抜いて国内首位の株主と推察される。株式市場への影響は大きく、下支えの役割を担っていると考えられ、株価の安定に貢献している。反面、ETFでの間接保有によって、物言わぬ株主の割合が増えており、外部からの指摘の弱体化や、健全性を損なうおそれも考えられる。仮に政策が現状のまま買い入れが進む場合、保有率の拡大による市場の流動性低下も想定され、継続が疑問視される恐れも考えられる。
投資指標の一つNT倍率は、日経平均株価と東証株価指数の頭文字、NをTで割って算出したものを指すが、現在、約15倍台を示している。この10年の間にその差は徐々に拡大し、全体ではなく日経平均の上昇が顕著となっている。株価は本来、企業業績や景気予測に基づく投資家の売買動向で上下し、経済の体温計とも言われている。買い入れによって、好景気が演出され、株価が実力以上に押し上げられている可能性も、否定できない。今後、市場にマイナス心理を働かせずに、どのタイミングで、買い入れ政策がセーブされるのかに注目されるだろう。
19年4月のOECD「対日経済審査報告書」には、日銀のETF買い入れ政策について、市場の規律や将来の金融不安を問題視する指摘がなされている。また、1月27日公表のIMF金融安定性報告書では、「金融当局は市場が調整するリスクに備えるべき」と表明。金融緩和の副作用にも目配りすべきと呼びかけを行っている。
今月18日からの決定会合では、どの程度の見直しがあるかに注目が集まる。中心となるのは、10年国債利回りの変動幅への容認と、流動性など市場機能の低下のリスク軽減を目指すと予想されている。また、ETFなどリスク資産の買入れについては、年間目標に拘らないより柔軟な運用や、今後の買い入れ額の抑制、225型からTOPIX型へ購入スタンスの一層の見直しが言及されるかが、焦点となる。黒田総裁は3万円乗せに対して、「ETF購入は金融市場の不安定化を阻止するために実施、特定の株価水準は目指していない。出口を検討する段階ではない」と述べた。
昔から株式は、買う以上に売るのは難しいといわれている。日銀の株式の売り時、すなわち出口には、今後も注目しておきたい。
(戸谷 慈伸)