統合イノベーション戦略 (2020年9月版)
4~6月期GDP速報値は、実質季節調整値で前期比7・8%(年率換算27・8%)の戦後最大の落ち込みとなった。7~9月期は2ケタの反動増が予想されるものの、リバウンドの持続に疑問を呈する見方も多い。
今や新型コロナウイルス感染症は、人々に未曾有の経験をもたらしている。世界各国が総力を挙げ、終息と拡大防止のため施策したロックダウン、移動・通勤制限などの導入は、物理的な距離だけでなく精神的にも人々に社会的分断を印象付けている。以前の状態に戻ることが最善だが、人々の健康を最優先に新たな日常の確立に向け動き始めなければならない。
7月に閣議決定された「統合イノベーション戦略2020」では、近年における日本のデジタル化、Society 5.0実現への遅れが改めて確認された。2016年に狩猟→農耕→工業→情報に次ぐ新社会を、デジタルによるイノベーション活用社会として位置付けたSociety 5.0だが、今回の感染症対策では、感染防止と企業・社会活動との両立が機能しないまま経済に大きな影響を及ぼしている。IMD(国際経営開発研究所)が昨年発表した「世界デジタル競争力ランキング」では、日本は主要63か国中23位とビッグデータの活用、国際経験の不足、企業の変化対応力の弱さなどが指摘された。
コロナ禍で顕在化したのが、個人情報や行動情報の集約と、相反する個人の自由・プライバシーのいずれを尊重するのかという点であった。また、国際社会における米中のデジタル化をめぐる覇権争いは、ファーウェイ問題に垣間見る推進上でのルール整備や、安全保障の観点が問題となっている。
「統合イノベーション戦略2020」の中で、政府が戦略的に進めるべき主要分野の基盤技術として、AI技術、バイオテクノロジー、量子技術などの分野が掲げられている。AI技術では、世界レベルに対応した人材育成と、海外から人材を呼び込める環境の整備、世界のAIのトップ・ランナーの輩出を目指す。バイオテクノロジー分野では、バイオとデジタルの融合をベースに、生物活動のデータ化による基盤整備と活用による最先端のバイオエコノミー社会を。また、量子技術分野では、量子技術活用による3つの社会像(生産性革命、健康・長寿社会、安全・安心の確保)を明確に設定し、産官学共同による取り組みの展開を考える必要性を提言している。同時に、最先端の研究開発の推進や人材育成、計測・分析技術の高度化による底上げも重要であると考えられている。
日本が喫緊に取り組むべき課題は、感染症や災害への対応強化であることに相違ない。今回の危機をデジタル化対応への転換を進める好機として、産業構造や働き方などのライフスタイルも含めた社会基盤・ルールの変革と、経済社会活動のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化を計ることが望まれよう。
情報技術分野の革新スピードは、1年が7倍のスピードといわれたドッグイヤーからマウスイヤーへ、今やそれ以上ともいわれる時代へと突入している。日本のことわざに「急いては事を仕損じる。」とあるが、この分野には当てはまらないだろう。今後、ビッグデータ収集とスーパーコンピュータ・AI活用を掛け合わせた研究が大きなインパクトをもたらす可能性が一段と増している。史上初、スパコンランキング4部門の世界第1位を獲得した富士通の「富岳」は、21年から共用開始を目指す予定であり、我が国はこの分野における競争力を未だ保持している。世界3位の経済大国が、23位のデジタル競争力という現状に甘んじることを看過していられない。2回にわたる補正予算(約57兆円)で一律10万円支給や、持続化給付金、観光促進策が打ち出された中、デジタル化関係費は補正予算の1%が割り当てられることとなった。
イノベーションとは、技術発明と理解されているが、広義には新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値や、大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会による幅広い変革を意味する。政府の戦略が、減税も含め、デジタル競争力の向上むけて加速することを期待したい。
(戸谷 慈伸)