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低利100年国債発行の必要性 (2018年4月版)

日経平均株価(終値ベース)は今年1月23日の24,124円から、3月5日に21,042円まで下落している。直接のきっかけは1月下旬から2月上旬にかけてのダウ工業株30種平均の急落が主因といえる。3月下旬にはトランプ米政権による異常な保護貿易主義の拡大で日本株は年初来安値を更新する下落相場を余儀なくされているが、異常はいずれ正常に戻るので、この問題では余り悲観しないほうが良いとみている。本号ではより根源的な日本株の悪材料について考察したい。

 

同コーナーの今年2月号でご紹介した事だが、市場は予想以上に本田悦郎駐スイス大使の日本銀行総裁か副総裁への就任を期待していたと推察される。本田氏は財政と金融の協調的な運用が重要とコメントしており、同氏が日銀総裁に選出された場合、デフレ脱却に向けて強力な金融政策の発動が見込まれていた。手詰まり感が目立つ現状の金融政策を一段と進化させる事が期待されていたが、本田氏の就任見送りで将来的には「元に戻るだけの金融政策」採用の可能性が高くなり、それが株価の上値を重くしていると思われる。

 

黒田東彦日銀総裁の最大の功績は過去の常識に果敢に挑戦した事だ。日銀は1970年末から73年末に為替の変動相場制等への対応から、マネタリーベース(流通現金+日銀当座預金)を「3年間で1.94倍」にしている。しかし、74年に消費者物価指数が前年比23%上昇するという狂乱物価が発生、物価上昇の真因はオイルショックによる原油価格急騰によるものだが、日銀はその後、短期間にマネタリーベースを急増させる金融政策を決して採用しないようにしていた。これは90年以降のバブル崩壊や90年代後半の金融危機、08年のリーマンショックの際にも堅持されている。

 

黒田総裁はこの常識に挑戦し、13年4月の金融政策決定会合でマネタリーベースを12年末の138兆円から14年末に270兆円、「2年間で2倍」にするという過去の日銀の常識を完全に否定する目標値を打ち出している。14年10月にはさらに金融緩和策を強化し、16年1月には日銀当座預金の一部にマイナス金利適用を発表、16年9月には10年物国債利回りを概ね0%程度に誘導するという金融政策まで導入している。中央銀行の金融政策は短期金利を対象に誘導するもので、長期金利の目標設定はできないという金融の常識を完全に打ち砕いてしまったといえる。

 

現在の安倍晋三首相と黒田日銀総裁が推進した経済政策、金融政策は日本経済を劇的に好転させる大きな成果を挙げている。12年11月14日の野田佳彦首相(当時)の国会答弁で政権交代が確実になり、その前日の日経平均株価(終値)8,661円は今年1月に24,124円まで上昇、株式時価総額(東証1・2部、マザーズ合計、月末ベース)は12年10月の261兆円が18年1月に698兆円になり、16年度税収の約8倍、436兆円という凄まじい値上がり益が実現している。

 

また、名目GDPは12年の494兆円が17年には546兆円まで増大している。税収の伸び率は名目GDPに連動する事から、租税及び印紙収入は12年度の43.9兆円が15年度には56.3兆円まで拡大、消費税率の5%から8%への引き上げもあったが、税収は着実に増加しつつある。ビザ発給要件の緩和や新興国中間層の大幅増という追い風もあり、訪日外客数は12年の835万人から17年には2,869万人まで急増している。海外旅行客・留学生・外国人労働者・技能実習生を着実に増加させ、移民ではなく『外国人の日本人化』を推進する政策に取り組んでいけば人口減の悪材料を克服していく事も可能であろう。

 

金融政策は一連の成果に多大な貢献をしてきたが、従来のような国債等を大量に買い付けて日銀当座預金を積み上げる政策は明らかに限界にきている状況だ。ただ、今までの金融政策を出口戦略と称して元に戻そうとした場合、以前のような急激な円高が発生し、経済停滞から税収の伸び悩みとなり、現状の巨額な財政赤字に税収停滞が重なれば国民は将来的に大増税を強いられると思われる。

 

このような事態を緩和するためにも今年1月号等でご紹介した日銀引き受けの低利100年国債を発行し、それを老朽インフラ更新の財源とすべきであろう。公共事業費は一般会計から切り離し、低利100年国債を財源とした特別会計に移管してはどうか。一般会計の公共事業費の分は全て借金の返済に回し、新規国債の発行を減らすべきだ。新興国の賃金が上昇してくると将来的にはインフレになり、利払い費の急増からいずれ凄まじい国民負担が発生するとみたい。17年12月末で日銀保有の長期国債418兆円(2年以上の中長期普通国債に占める比率51%)は全て日銀引き受けの低利100年国債に切り替え、金利の固定化を急ぐべきだ。過去の常識を打ち砕く金融政策を一段と進化させ日銀引き受けの低利100年国債を発行し、巨額の財政赤字と利払い費の拡大につながる日銀の出口戦略という「2大悪材料」を封じ込む事が肝要だ。『財政と金融の一体化』による金融政策をビジネス感覚で戦略的に活用する時節が到来していると推察したい。

 

(北川 彰男)

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