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トランプ次期米国大統領と通商政策 (2016年12月版)

米国の次期大統領にトランプ氏が当選しているが、改めてトランプ氏当選の背景と今後の日本の経済等への影響を考察したい。米国では約1,100万人と推察される不法移民の存在により、最低賃金制度を導入していても、それを下まわる不法賃金で移民労働者が仕事を奪ってしまうため、労働スキルが低い低所得者層は失業や低賃金を強いられて、苦しい生活に追い込まれているといわれている。

 

クリントン氏も最低賃金の引き上げは唱えていたが、それは実情を知らない上から目線の政策であり、本当に自分たちの就職や賃金上昇を有利にするためには、放置しておけば大量に流入する移民を少しでも減らす事が急務であり、特にメキシコへの工場の移転問題は米国工場の閉鎖、自身の失業に直結する事から、一部の米国労働者の心に恐れが増幅していたと思われる。島国で移民の大量流入がない日本人には理解しがたい感情であろう。

 

「グローバル化」とは国境の垣根が低くなる事であり、新興国の労働者との賃金格差が平準化する圧力が発生するため、先進国の労働者の賃金が上昇しにくくなるというのは経済の原理であろう。これは長期的にみれば誰も止められないものだ。本当に必要な政策は移民排斥ではなく、労働市場の流動化、セーフティーネットの促進、職業訓練制度の充実等で、新興国を上回る生産システムやサービス産業の高度化を図っていく事が本来推進すべき政策だと思われる。

 

また、先進国の労働者の賃金が上昇しにくいもう一つの抵抗しがたい理由は現在、サービス産業の自動化が急速に進んでおり、今後はロボットの大量導入で低スキルの単純労働の仕事は時間が経てば経つほど大幅に減少していくという大きな流れが根底にあると思われる。ただ、これは移民を多少、排斥しても解決するものではない事は明白だ。生産性向上にはロボット導入は不可避になる事から、ロボットの監視・制御をする仕事を増やしていく事が肝要であろう。そして、ワークシェアリング(仕事を分け合う制度)で仕事を分担して、なるべく多くの人が仕事に従事し、余暇の時間をつくる事で新たな需要を創出する事が今後の進むべき方向性だと推察したい。

 

世界の共通言語ともいえる英語圏には、移民が集まりすぎてしまうという根本問題がある。全く言葉が分からないのと単語ぐらいは多少わかるというのは大変な違いだ。移民等に対して厳しい発言を繰り返す政治勢力が英国や米国で勝利したのは、移民急増の大国の国民にしか分からない感情なのかもしれない。一部の米国有権者の本音は黒人の大統領を2期も選んだのに今度はエリート色の強い女性候補を押し付けて美しい価値観を述べているが、グローバル化で疲れ切った自分たちの生活の実情にもっと目を向けて欲しい。トランプ氏の大統領選挙勝利の真因は、人間が持つ心の闇の部分に上手く入り込んだ事であろう。

 

確かに移民が集まり過ぎてしまう両大国の苦悩に対して、世界はもう少し考慮する必要がある。両国が一定の制限を導入する事に対して批判をする事は簡単だが、それならば自国がもっと移民を受け入れるべきという話になるのではないか。移民問題を解決に導くには、戦争やテロ、貧困に対する国際的な包囲網、支援策が必要であり、従来の価値観の押し付けでは容易に解決しない事は明白であろう。その面で、ロシアや中国と損得勘定を優先させた話し合いを進めると推察されるトランプ外交は一定の可能性はあると思われる。

 

トランプ氏は選挙中に中国やメキシコの輸入品に対して、高い関税をかけると明言していたが、米国の製造業の労働者を守ろうとすればそれは必要な政策であり、巨額の対米貿易黒字を計上している日本にも厳しい姿勢を向けてくると思っていた方が良いのであろう。トランプ氏が唱える大幅減税やインフラ投資は財政赤字の拡大につながり、国債の供給増から債券価格の下落、米国金利の上昇を見込んで、足元は円安ドル高が進んでいる。

 

しかし、トランプ氏の経済政策はドルの大量供給であり、長期的にはドル安の圧力が高まっていく事から、いずれ円高ドル安に反転すると思われる。また、トランプ氏を支持した米国製造業の労働者の雇用確保のためにドル安は必要な政策であろう。同氏の過去の発言では在日米軍の駐留経費の負担増額等にも言及している。経済への影響が大きい通商問題で厳しい要求を受けないように注意深く対米外交を進める必要があると推察している。

 

(北川 彰男)

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