コーポレートガバナンス・コードの威力 (2015年8月版)
コーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所が、今年6月1日から導入した上場企業に対する『企業統治の指針』である。詳細は割愛するが、同指針で特に重要なポイントは①株主との対話促進に取り組む。②独立性の高い社外取締役を2人以上選ぶ、選任しない場合は理由の説明を義務づける。③他社との持ち合い株がある場合は目的を説明する。④買収防衛策を導入する際は理由や合理性を説明する。以上の4点になると思われる。
①株主との対話では海外投資家の存在が大きくなっている。日本の上場会社に対する外国法人等の保有比率(時価総額ベース)は2015年3月末で「31.7%」になり、投資部門別では日本企業の最大の株主になっている。ROE(自己資本利益率)とは株主の持ち分である自己資本(株主資本)に対して、どれだけ当期純利益を上げたのかを表す財務指標だ。14年の各国主要企業の平均ROEは米国15.1%、英国15.7%、世界平均12.4%に対し、日本は8.5%と明白に劣っており、海外投資家が日本企業の低ROEに言及するのは当然であろう。
日本の企業はなぜ、今までこのような低ROEの経営が許されてきたのであろうか。その主な要因の一つに政策保有株式(持ち合い株式)の存在があったと推察している。取引先と株式を持ち合う事で取引関係は安定化するが、コスト意識を薄れさせ、それが低収益につながっていた側面もあったと思われる。また、持ち合い株式は他社からの買収に対する防衛策にもなる事から、必要以上の身内意識の向上、なれ合い経営ともいえる状況になり、低ROEが継続していたと思われる。
前述の重要なポイントとした②~④は、この日本企業の低ROEを許容していた構図を打破する目的で導入されたと解釈している。持ち合い株や買収防衛策に対して説明する義務が生じるという事は、株式の持ち合いや買収防衛策の実施が難しくなり、持ち合い株の解消が進展する事になる。これにより、同じ業界で数多くの企業が存在する日本も今後、業界の再編が大幅に進む事が予想される。
企業統合をする場合、A社の株価が1000円でB社が500円の場合、統合の比率は「1対0.5」が基本ベースになる。発行済み株式数が両社とも同じならば株主構成上、A社側の立場はB社側より優位になるであろう。今までのように持ち合い株の実施や買収防衛策の導入が比較的、容易であった時は低ROEでも許されていたが、今回の企業統治指針でそれは困難になったといえる。独立の維持や統合の際に有利になるためには、日本の上場企業はROEを高めて株価を上昇させる事が必達目標になってくると思われる。
なぜ、ROE重視の経営が急がれているのであろうか。その根底には日本の財政赤字問題もあったと推察している。混迷を深めるギリシャのGDP(国内総生産)に占める政府債務残高比率は175%(13年時点)になるが、日本は14年時点で230%の状況だ。もちろん366兆円余も対外純資産を保有する日本とギリシャでは経済の質は根本的に違うが、巨額の政府債務の存在は将来的に重い国民負担になる事は否定できない事実であろう。
政府債務の解消策は①増税、②歳出削減、③経済成長による税収増になる。ROE重視の経営で先行する米国は企業が稼ぐ力を激しく競い合う社会であり、極端な格差の弊害もあるが、税収は継続的に拡大している。S&P500は米国を代表する株価指数だが、同指数は82年8月12日の102.42(同時点の実績PER7.2倍)の安値から、今年5月21日には2130.82(同21.6倍)の高値を付け、同期間の上昇率は20.8倍になる。
株価指数をPERで除したS&P500のEPS(1株利益)は「14.23」から「98.65」と『6.9倍』になっており、単純計算で法人税収は約7倍になった事になる。日本の財政赤字削減、国民負担の最小化にはこの方法が最適であろう。また、今年3月末で年金積立金管理運用独立行政法人は日本の公的年金を137兆円余り運用しているが、国内株式の全体に占める運用比率は22%の高水準であり、株価が下落すれば公的年金は将来的に減額等に追い込まれる可能性もあるとみたい。米国のように企業利益が継続的に拡大し、それに応じて株価も上昇する構図が必須事項であり、その実現にはコーポレートガバナンス・コードが威力を発揮すると推察している。
(北川 彰男)