日米のPERの平準化 (2014年3月版)
株価には絶対的な投資尺度はないが、一定の目安はあると思われる。PER(株価収益率)は株価を1株当たり利益で割った基本的な投資尺度だ。米国の代表的な株価指数であるS&P500に採用されている企業の年末最終週のPER(実績ベース)は1968年~2008年の41年間の平均で17.6倍になっており、89年末の東証1部上場企業の平均PER(同)は『70.6倍』、東証株価指数(TOPIX)は「2881.37」であった。
89年末のS&P500のPER(同)は『14.7倍』、同指数は「353.40」になっているが、その後の日米の主要平均株価は真逆の動きになっている。TOPIXは何度も本格上昇の気配をみせながら結局は期待外れに終わり、12年6月には最高値の4分の1以下の「695.51」まで下落している。
これに対してS&P500は長期間にわたって上昇波動を継続しており、今年2月28日には「1859.45」と89年末比で5.3倍となる史上最高値を更新している。日米の株価はなぜ、これほど極端なかい離をしたのであろうか。理由は明白である。グローバル化とは国境の垣根が低くなることであり、両主要平均株価のPERが平準化するためのグローバルな市場の圧力が発生したからだと思われる。89年末のバブル期にかけて日本の株式市場で高水準のPERが定着していた構造については割愛したい。
TOPIXは12年10月12日の時点で「718.32」(日経平均株価は8534円12銭)、同日の東証1部の予想PERは12.1倍まで低下していた。これに対してS&Pの予想PERは13.7倍になっており、驚くべき事に米国のPERを下回る水準まで低下していたのである。その後、12年11月中旬から13年12月末までTOPIXは強い上昇波動を実現している。これは金融政策の大転換という材料が主因ではあるが、日米のPERが平準化する事で株価が急上昇できる下地が整っていた事も要因の一つであろう。
直近でも東証1部とS&P500を対象とする予想PERは15倍台で安定して推移している。日本の主要平均株価はバブル期のようにPERという投資家の期待感が膨らむ事で上昇するのではなく、米国市場のように企業の利益が上昇する事で株価も右肩上がりになる理想的な市場環境が定着しつつある。
もちろん、米国のS&P500のPER(年末最終週・実績ベース)も過去には一定の上下をしている。ITバブル等の影響もあり「98年~01年」の平均PERは32.2倍まで上昇しており、「74年~81年」の期間では逆に8.94倍まで低下している。株価の主な決定要因は『企業利益の伸び率』と『PERの水準』になるが、今後のリスク要因として米国のPERが以前のように9倍割れまで低下する事で日本のPERも低下し、株価が下落するパターンもあると思われる。
しかし、米国のPERが9倍ほどであった時期は第1次、2次石油ショックの影響でコアCPI(食料・エネルギーを除く消費者物価指数)の年平均の上昇率が「9.0%」もあり、同期間の米国10年国債の平均流通利回り(年末ベース)は9.5%、株式益回り(PERの逆数)の平均は11.5%の水準であった。一般的に国債の金利が上昇する金融引き締めの時期は資金不足になり、株式は売られる事でPERも低下し、その逆数の株式益回りも上昇する事になる。株式益回りの上昇の目安は10年国債の利回り水準になるため、国債の利回りが高い時期は低PER(株式益回りは高水準)になる傾向がある。
直近の米国の10年国債の流通利回りは2.6%台、S&P500の予想PERは15倍台(株式益回りは6%台)になっている。今年1月の米国のコアCPIは前年同月比で1.6%の上昇率と低水準が定着しており、金利が大きく上昇してPERが低下(株式益回りが上昇)する可能性は極めて低いと思われる。以上の観点から米国の株式市場のPERは低下せずに企業利益の伸び率に応じて株価も上昇する事が予想され、米国のPERと同水準の日本の株式市場も企業利益の伸びに伴い株価も上昇する市場が定着すると予想している。
(北川 彰男)