世界経済全体を見渡した金融政策 (2014年2月版)
年初より日米の株価が下落している。理由としては先月号の当コーナーでリスク要因として挙げた事が、相場に織り込まれているからだと推察している。大局的な相場の流れを予測する際、名目GDPに対する時価総額(株価に総発行株数をかけたもの)の比率を重視しており、米国の名目GDPに対するニューヨーク証券取引所とナスダックの上場企業の時価総額(年末ベース)の比率は、1991年~2012年の平均値で「108%」の水準になっている。
同数値のピークは99年末の「172%」、08年9月のリーマンショック前では07年10月末の「143%」がピークになっており、09年3月末の「70%」でボトムを付けている。これが13年11月末で「139%」の水準になっており、『リーマンショック前のピーク時に接近している事は留意すべき材料であろう』と先月号で述べているが、高水準の株価の調整が前倒しで発生したものと解釈している。
ただ、この調整が本格的な下落相場につながるものではないと推察している。その理由も先月号の当コーナーで触れているが、米国のGDPに対する経常赤字の比率が大幅に好転している事があげられる。同比率は06年の5.76%が09年に2.65%まで急減し、12年も2.71%と縮小傾向が定着している。経常収支は財貨の取引を計上する「貿易収支」、旅行・輸送などのサービス取引を計上する「サービス収支」、利子・配当金などの受払を計上する「所得収支」等で構成されている。
経常赤字とは簡略にいえば国民経済全体で所得より消費の多い過剰消費の状態であり、放置しておけばいずれ通貨の暴落や輸入物価の急騰から、インフレと高金利が慢性化し、経済の持続的な発展を大きく阻害する要因になるものだ。米国の経常赤字問題は1980年代後半から世界経済の一大波乱要因として、個人的にも長らく警戒していた懸念材料であった。
現在の米国経済はシェールガス(オイル)の膨大な埋蔵量で米国の製造業の復権が一段と進展する事が予想されている。米国の経常収支が将来的に黒字化する事も視野に入るほどであり、リーマンショック時の世界経済の構造とは決定的に相違する状況にある。米国経済は一段と輝きを増す新たな発展のステージに入ったと思われる。大黒柱の米国経済が頑強であれば基調としては株式市場に弱気になる必要はなく、日本の株式市場も今回のようなスピード調整を繰り返しながら、長期的に堅調な相場が続くとみている。
しかし、一般の方々には分かりくい事だが、経済には常に二面性がある事を注意すべきであろう。米国が所得よりも消費をする経常赤字(過剰消費)の状態であったからこそ、多くの新興国も恩恵を受けて経済発展をしていた側面もあったのである。世界のGDPの約22%(12年・米ドルベース)を占める米国の経常赤字の縮小は、他の国々の経常収支を悪化させる事につながり、特に経済基盤の弱い新興国の経済発展を阻害する危険性があると思われる。
今年は米連邦準備理事会(FRB)が国債等を大量に買い付ける量的金融緩和を徐々に縮小していく見通しになっている。米国の財政赤字は2009会計年度の1兆4157億ドルが2013会計年度には6802億ドルまで急減している状況だ。国債の発行量自体が激減しているのであるから、米国経済のみに限定すればFRBが大量の国債を買う必要性は著しく低下しており、量的金融緩和の縮小は当然の事といえる。
しかし、米国の経常収支が劇的に好転している状況を考えれば新興国の経済に負担が増す事を懸念している。米国は量的金融緩和の縮小のペースを遅らせるか、日本や欧州が追加の金融緩和策を実施する必要があるのではないか。主要先進国のインフレ率がなぜ低水準に留まっているのか。グローバル化とは物価も含めて世界経済の平準化だと解釈している。日米欧の中央銀行は世界経済全体を見渡した金融政策が求められていると考察したい。
(北川 彰男)