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老舗に学ぶ (2024年9月版)

7月末、日米の金融政策決定会合を転機とした円キャリートレードの巻き戻しによって、8月の株式市場は大波乱となった。日米のリーダーを決める選挙の行方も、現段階では不透明で、当面は神経質な展開が予想されるだろう。慎重な対処が肝要と思われる。

 

新紙幣の肖像画に採用された渋沢栄一が、日本資本主義の父と呼ばれ、明治初期に公益の追求を信条に企業の設立や運営、出資者として多くの創業に関わったことは広く知られる。合併・被合併を繰り返しながら、設立から100 年を越えた今も業界を牽引する企業も多く、金融・保険、エネルギー、鉄道などインフラ関連を中心に関係企業は、現在でも110 社を数える(帝国データバンクより)。今や日本全体で100年を越える老舗は4 万社を超え、最近では毎年約2,000 社が100 年企業として仲間入りしており、世界でも群を抜く。

 

老舗は、仕似す(しにす)に由来しており、似せる、真似るなどの意味合いから江戸時代以降、家業を守り継ぐという意味で使われ、「老舗(しにせ)」と名詞化され定着した。100 年以上経営を続ける老舗には、相次いだ世界大戦や災害、市場環境や需給の変化という困難を乗り越えてきた強さ、という共通点が存在しており学ぶべき点は多い。

 

元々日本に老舗が多く存在するのは、島国という土地柄で江戸時代のような長期国家体制が維持された点が大きい。戦国時代以後、権力者による産業保護政策やその体制のもと、日本独自の継続を重んじる価値観や、ものづくりを愛する気風といった精神面の醸成も存続につながった理由と推測される。最長は、ギネスブックにも登録された世界最古の企業、578年創業の金剛組(髙松コンストラクショングループ子会社)で、聖徳太子の命で招かれた宮大工を初代とし、四天王寺の建立を手がけて以来1400年以上存続している。

 

一般的に、老舗には保守的な印象が持たれがちだが、実際には現状を踏まえて常に将来を見据えて変化に挑む企業も多く見られる。長く存続する理由には、取引先・顧客との信頼関係や、時代に合わせた事業内容・構成への変化が挙げられるが、不易流行の精神(不易=変えてはならない企業の使命や価値、流行=変えていくべき日々の活動)とともに、変化を厭わぬ進取の気性を常に持ち合わせ、時代に合わせた製品改良や販売方法に取り組み、取引相手に対して新たな価値を提供し続ける点で共通している。また、変化とともに事業を継続させるために欠かせなかったのが、無理に成長を追わない身の丈に合った経営姿勢を崩さぬことが考えられる。老舗の中には、同族経営も多く見られるが、血族に固執せず、企業存続のために優れた人材を外部から入れることに躊躇しない点も挙げられるだろう。また、長い年月により培われた歴史と、受け継がれてきた知識や技術、経営の知恵という無形資産が備わっており、何よりも長い年月をかけなければ築くことのできない、信頼と品質を表すブランド価値(力)という財産を老舗は持っている。

 

老舗の多くは、独自の清酒や和菓子のような日本固有文化に関わる事業を展開するものが多い。海外観光客の目的には、日本ならではの他国にない固有文化への興味や憧憬があると言われており、昨今は老舗の魅力が認識される絶好の機会が到来している。しかしながら、100年超の老舗は増加傾向にあるが、経済情勢の変化や人口減少による後継者問題に直面し、廃業するケースも増えている。

 

老舗の存続は、日本社会の将来にも大きく影響し、持続可能性にも関わる重要な問題と考えられる。現状、一般的な工業製品や数量競争では、中国やインドに対して優位性を保つことが難しい時代が押し寄せており、世界での存在感は低下しかねない。日本固有の文化やブランド力を見直し、国を挙げて世界に発信し、老舗ブランド文化を輸出するようなマネジメントがこれからは必要となる。ブランドは、経営資源の1つとして重要であり、顧客に浸透した価値観は、長年の信頼関係よって培われた価値ある物である。その価値観は、連綿と続くことが向上させる源となるだけに、大切に守られるべきであろう。

 

世界で最も多く存続する日本の老舗企業の歴史について知ることは、時代の変遷への対応を学ぶ機会にもなる。それは、グローバルな時代でも世界で通用すると考えられ、誇るべき日本の財産であるだけに大切にしたい。

 

(戸谷 慈伸)

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