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動き出した個人金融資産 (2024年8月版)

米大統領選まで残り約3か月のタイミングで、バイデン大統領が再選を断念した。共和党トランプ前大統領の勝利の確率が上昇する中で、民主党もハリス後継候補を中心に巻き返しを図ることとなった。当面は、不確定要素の見極めが重要であり、市場の乱高下には注意を払いたい。

 

今回は前半を振り返り、お金の動きを追いかけてみたい。6月末発表の日銀「資金循環統計(速報)」によれば、2024年3月末の家計金融資産残高は、前年比7.1%増の2,199兆円と6四半期連続で過去最高を更新した。内訳では、株式等の保有残高が前年比33.7%増の313兆円、投資信託(=投信)が同31.5%増の119兆円と大幅に増加した。3月末時点の日経平均株価が40,369円と、前年の28,041円から約44%上昇したことで含み益が大幅に膨らみ、新NISA開始とともに利用の増加が株式や投信への資金流入につながったとみられる。そのほか、現金・預金保有残高は前年比1.1%増の1,118兆円、国債など債券が同6.5%増の29兆円、保険・年金・定型保証が同1.5%増の541兆円となり、構成比では現金・預金が50.9%、保険・年金・定型保証が24.6%、株式等14.2%、投信5.4%の順となった。4-6月期は賃上げとボーナス月を含むこともあり、例年、資金の純流入が進む傾向がある。同時に、内外の株価上昇によって6 月末時点でも個人金融資産残高はさらに増加、過去最高を更新する可能性は高い。

 

今回の注目点の1つに、前述の新NISAの影響が挙げられる。日本証券業協会によるNISA口座の開設・利用状況調査(3月末時点)では、昨年末より187万口座増加の2,323万口座(前年比1.2倍)、買付額は6兆1,791億円(成長投資枠+つみたて投資枠)と前年比約4倍と、大幅に増加した。これは2007年以来の大きさで、新NISA開始をきっかけに家計資産が株式・投信に向けて流入が加速したことが確認できる。株式・投信への流入に対し、生命保険は減少しており、保険から投資へ資金配分を動かすとともに、消費を減らして投資に回す「消費から投資へ」の動きが目立った。なかでもNISA 枠の拡充を追い風に、投信への純流入が3.5 兆円と大きく拡大したことや、確定拠出年金内での投信の純流入も確認されており、過去最高を記録した。投資枠の拡充や、インフレによる資産価値の目減り懸念から、家計資産が今まで以上に収益性重視の傾向を強めてきたといえる。

 

投資信託協会の統計でも流入は明らかで、公募投信の純資産残高は、6月末現在237兆3,889億円(うち公募株式投信221兆5,693億円)と、過去最高を記録した。また、公募株式投信は、昨年の年間純資金流入額7兆7,443億円に対し、6月末現在で9兆1,423億円流入と、過去10年の平均額を大きく上回っている。商品分類別では、海外株式型の純流入額が過去最大の1兆387億円となり、新NISA開始と海外の株高や円安進行を背景に、海外で運用する投信への流入が際立つ。一部では、この流れが外為市場の円安要因の1つとも考察されているが、長期的資産形成を前提とする新NISAであれば、逆に円高要因となる反対売買の可能性は低く、今後も家計資産の投信経由の対外証券投資は続くとみられる。

 

財務省発表の対外・対内証券売買契約等の状況(指定報告機関ベース)では、国内投信運用会社による海外株・ファンドの買い越し額は、6月単体で1兆5億円、6月までの合計は同期間では過去最高の6兆1,639億円と、月1兆円ペースとなっている。今後も円安傾向が続けば、当面は外貨建て投資を誘引することも考えられる。

 

7月発表の2023年度株式分布状況調査の結果では、全国4証券取引所上場会社(3,984社)の株主数合計(延べ人数)は、前年度比469万人増加の7,609万人となった。うち個人株主が全体の97.8%を占め、前年度より462万人増の7,445万人と10年連続で増加した。投資単位引き下げ要請を受けた上場各社の株式分割実施によって、最低投資金額が引き下がるとともに、新NISA制度を契機に株主が大幅に増加したと考えられる。3,984社の時価総額は、1,008兆465億円と初めて1,000兆円の大台を超え、うち個人・その他の保有金額は、170兆4,893億円と全体の16.9%を占め、2年連続増加となった。なかでも特筆すべきは、全部門の平均を上回る増加率の外国法人等で、320兆4,750億円、保有比率は31.8%と過去最高を更新した。

 

2001年の「貯蓄から投資へ」のスローガンから20年以上の月日を経て、22年に「資産所得倍増プラン」が打ち出された。家計資産や、金融資産所得の増加を意識したお金の潮流が、徐々に勢いを増していることが確認できる。

 

(戸谷 慈伸)

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