日本経済見通し (2022年11月版)
ウクライナ問題発の世界的なインフレの流れは、抑制をめざす各国の金利引き上げによって景気を停滞に向かわせようとしている。そんな中、円安に見舞われる日本経済が、回復の動きを維持できるか検証してみたい。
10/3の日銀全国企業短期経済観測(短観)では、大企業製造業の業況判断指数(DI)はプラス8、非製造業はプラス14であった。製造業の景況感は、原材料価格上昇による利益率の悪化と、国内外の需要減速によって足元では低下したものの、3か月先の見通しについては改善を予想している。非製造業は、不動産・建設業が堅調だが、足元の物価上昇を背景に3か月先の小売業やサービス業の悪化が予想されている。注目すべきは、全産業で設備投資が旺盛で人手不足感がみられ、企業の業績に上方修正の動きがみられる点である。懸念すべきは、今後、身近な品目の価格上昇が実質ベースの所得減少を招き、個人消費全般への逆風となることである。
日本の脱コロナの動きは、欧米に比べ半年以上遅れてスタートを切った。欧米は、いち早く景気優先の政策を進めたこともあり、経済活動は昨年半ばには直前の水準を上回った。一方、日本は五輪開催の前に感染抑制を優先し、秋頃まで停滞したのち22年4~6月にようやくコロナ前の水準まで回復した。9月に入り感染のピークアウトが鮮明となり、サービス消費の回復に牽引される動きは、これからが本格化と考えられる。政府もGoToトラベルの後継として「全国旅行支援」を実施、出遅れていたサービス分野の消費も、旅行や飲食を中心に10~12月期にかけて回復が期待できる。
つぎに、利上げが急ピッチの欧米に比べて、日本では依然として、金融緩和が続くことである。日本の消費者物価は日銀が目標とする2%を既に上回っているが、9月の金融政策決定会合では現状の金融緩和(大規模量的緩和+短期マイナス金利)の維持が決定され、会合後の総裁記者会見でも金利を上げない姿勢が確認された。とはいえ、円安による物価上昇は続いており、23年中には消費者物価上昇率が2%前後で推移するとみられる。当面は、低金利が企業の設備投資のほか、住宅投資や高額商品の購入への後押し材料として考えられる。短観の設備投資計画では、全規模合計の全産業で前年度比16.4%増と大幅に増加した。ソフトウェア・研究開発を含む設備投資額(除く土地投資額)は+14.9%と、昨年に比べ大幅に増加しており、人手不足を背景にした労働代替の投資や、DX化の動きが今後も続くとみられる。
また設備投資の積極化とともに、コロナ後の企業の雇用拡大と確保のための賃上げが期待される。日銀短観の雇用人員判断DI(過剰-不足)では、9月調査で製造業-19%Pt、非製造業-34%Ptと、ともに大幅な不足超過状態で、失業率は8月も2.5%という低水準が続いており、賃金の上昇が加速しやすい状況にある。10月より最低賃金は全国加重平均で時間あたり31円引き上げられ、961円(前年比+3.3%)となったが、今後も企業は雇用の回復・拡大と同時に、確保のために一段の賃金引き上げを迫られるとみられる。臨時国会で岸田首相は、成長産業への労働移動を促すリスキング(学び直し)支援を表明するとともに、物価上昇をカバーする賃上げを労使間交渉に求めている。
最後に、インバウンド需要の回復に注目したい。首相は訪問先のニューヨークで、1日の入国者数の上限撤廃、個人旅行の解禁、短期滞在のビザ免除の実施を明言した。入国者数の上限引き上げだけでは期待できなかったが、ツアー限定から個人旅行解禁への緩和や、ビザ免除が奏効すれば、円安と相乗的に訪日外国人数の回復が見込まれる。外国人旅行客によるインバウンド需要である旅行収支の受取額は、コロナ禍前の2019年度には4兆8,703億円を記録しており、いまだに中国ではゼロコロナ規制が継続しているものの、今回の緩和により来日観光客がピークの半分の水準でも回復すれば、GDPへの寄与は日本経済にとって小さくないインパクトとなる。
世界的には後退ムードが漂うが、日本の景気は期待も込めて底堅く推移すると考える。
(戸谷 慈伸)