ミレニアル世代への期待 (2020年8月版)
さる7月3日、東京証券取引所より発表された2019年度の個人株主数は、6年連続の増加(前年度比199万人増)となり、のべ人数ではあるが、5,672万人と過去最多を記録した(全国取引所上場3,789社)。
内訳は、上場廃止の影響で約36万人減少する一方、新規上場で24万人、株式分割・売買単位引き下げ実施で36万人、その他の会社で174万人増加した。この数字には含まれないが、「老後2,000万円問題」などを契機に、ミレニアル世代(00年以降の成人、及び社会人世代)の株価指数連動型投資信託への参加の動きもうかがわれる。
保有金額は株価下落の影響もあり、前年度比16兆5,466億円マイナスの90兆4,115億円と、3年ぶりに100兆円台を下回り、売買状況は年度合計で1兆8,963億円売越しと、09年度以降11年連続であった。ただ、昨年末時点では、3兆5,612億円の売越しであったが、1月から3月にかけての下落時には1兆6,648億円の買越しとなっており、個人投資家の中には処分売りの一方で、新規に投資家デビューする存在も確認できる。事実、コロナ禍におけるネット証券の口座開設が急増したとの報道もあり、市場参加者の増加は今後の株式市場において前向きな話である。
一般的に、金融商品・金融サービスの選択や、生活設計上での判断に必要な金融や経済に関する知識や判断力などを「金融リテラシー」という。そして、このリテラシーは社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送る上でも欠かせないものといわれている。
昨年、金融広報中央委員会より発表された「第二回金融リテラシー調査」によると、若年層(18-29 歳)の正答率は低く、年齢が上がるほど正答率が高まる傾向が強い。これは、社会的な経験や金融知識の蓄積による差を表しているが、50~60 歳代をピークとしている。また、欧米の調査と共通した問題で比較すると、正答率は日本の方が低くなっており、若年層時代から金融リテラシーを身に着け、底上げすることが、今後の日本の生産性や株価の上昇にとっても、重要な要素と考えられる。人口に対して金融リテラシーを持つ成人の割合が高くなれば、労働所得だけではなく、資産運用による資本所得の効果も加わるため、1人あたり名目GDPの増加も期待できる可能性もある。また株式市場への参加は、開かれた市場づくりでも重要な課題である。
実際、若い世代の金融リテラシー向上を有効と考え、学校での教育カリキュラムへの組み入れは始まっている。社会人では、仕事に関係ない勉強は後回しされがちで、学生時代であれば必然的に触れやすい。現在、つみたてNISAやiDeCoなどの投資促進制度が整備されており、学校を卒業してすぐに金融リテラシーは必要になるため、学生時代の学びが生涯にわたる生活を大きく左右させることにもなりかねないだろう。
昨年改訂された中・高の学習指導要領には、金融経済教育に関連する内容が盛り込まれた。例えば、高校の公民・家庭科などで学校の現場でタブー視されてきた資産運用について取り扱うことが例示されたほか、生涯の経済計画(教育・住宅・老後など)やリスク(事故・病気・失業など)への対応から、資産形成の視点で預金・保険・株式・債券・投資信託などの基本的な特徴(メリット、デメリット)にも触れることを求めている。さらには、数学を金融と結びつけた視点で教えることなども例示されている。また証券業界でも、証券業協会や日本取引所グループ、個々の証券会社が、学校における金融経済教育に協力し、教材の提供、教員向けセミナー、出前授業などを行っている。
積み立て型投資を行う投資家は今、徐々に増加している。ミレニアル世代は家計から投資に回せる資金が限られる一方で、資産形成のための時間はある。マイナス金利の時代の資産運用は、いまや必須であり、金融リテラシーの向上は、それぞれの生活や将来に強く影響を及ぼす。運用手段として株式市場への参加、即ち株主になることは、日本経済の一員としても必要と考える。手前みそのコラムで恐縮だが、一員としてミレニアル世代の金融リテラシー向上を期待したい。
(戸谷 慈伸)