資産形成の取組みに向けて (2019年11月版)
2014年1月にスタートした少額投資非課税制度、通称NISAもこの12月末に、2回目の非課税期間(5年間)の満了を迎える。
ご存知の方には旧聞に属する話だが、非課税期間が終了した時には、保有している金融商品を翌年の非課税投資枠に移す、いわゆるロールオーバーができるほか、NISA口座以外の課税口座(一般口座や特定口座)に移行も可能である。なお、ロールオーバー可能な金額に上限はなく、時価が120万円を超過している場合も、その全てを翌年の投資枠に移すことができる。現在、NISAは23年までの制度とされており、購入可能は23年までで、以後5年間(27年まで)非課税での保有が可能とされている。
金融庁調べでは、6月末時点でのNISA(一般・つみたて)の口座数は、1,308万9,411口座(一般1,161万8,539・つみたて147万872)。ジュニアNISAは32万8,982口座となっている。買付額は、177兆593億2,467万円(一般16兆8,812億3,542万円・つみたて1,780億8,925億円)。ジュニアNISAは、1,405億8,345万円であった。保有金融資産の割合や、リテラシー(知識)を背景に、年代別には60歳代以上でおよそ半分を占めるが、今年3月末からの増加率は20歳代の伸びが高く、5%近い伸びとなった。特に昨年から導入されたつみたてNISAに限れば、現役世代の同期間伸び率は15%を超えている。当初の金融資産保有者だけでなく、現役世代に資産形成の意識が芽生え始めた証左ではないか。
参考までにつみたてNISAの商品別の買付額は、6月末時点で、単元や金額の問題のため一般NISAとの比較は難しいが、投資信託1,780億3,307万円(99.97%)、内インデックス投信1,274億8,465万円(71.6%)、アクティブ投信304億2,180万円(17.1%)、ETF5,618万円(0.03%)であった。
つみたてNISAは、長時間(20年間)の時間分散投資により、リスクの軽減とリターンの安定化をめざし導入された。しかし、現行の制度では来年は18年間しか積立投資を行えない。そこで金融庁は、利用開始時期にかかわらず20年間の積立が行えるよう「つみたてNISA」の延長と、時限措置であるNISAの恒久化を今回、要望した。
主な内容を見てみると、8月末、金融庁は「令和2年度税制改正要望項目」を公表。政府の税制調査会がまとめた中期答申「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」をふまえ、年末にかけて与党税制調査会での審議の後、「税制改正大綱」が決まり、公表されるスケジュールである。金融庁は主な改正要望項目として、「資産形成を支援する環境整備」、「簡素で中立的な投資環境の整備」、「保険・特別法人税」の3項目をあげた。
「資産形成を支援する環境整備」では、NISA利用者が成人人口の1割程度にとどまる中、税制優遇措置の拡充等により少額からの長期・積立・分散投資を始め、適切なポートフォリオを構築していく支援の必要性を訴え、制度の恒久化や利便性向上を要望した。具体的には、時限措置のNISAを恒久措置とし、「つみたてNISA」の20年間の積立期間確保のため期限(2037年)の延長を要望。また、企業が従業員に対して規約に基づき支給する、つみたてNISA奨励金を、月あたり1,000円限度で非課税化(3年の時限措置)と、NISA口座の手続書類(開設・変更・廃止等)のすべてを電子化可能にすることを内容としてあげている。
「簡素で中立的な投資環境の整備」では、金融商品に係る損益通算の範囲を、デリバティブ、預貯金等までの拡大。上場株式等の相続税に係る見直しは、課税時期(死亡日)の前年の年平均株価、課税時期の属する月以前2年間の平均株価も、相続税評価額の対象に加える事を要望した。その他にも「保険・特別法人税」やその他項目も含め、税制改正への採用が望まれる。
日銀「資金循環の日米欧比較」(19年3月末)より日米の家計金融資産構成を比較してみると、主な項目では(カッコ内米国)、現・預金53.3%(12.9%)、投資信託3.9%(12.0%)、株式等10.0%(34.3%)、保険・年金・定型保証28.6%(31.7%)の構成になっており、現・預金比率が突出して高い。
資産形成のための投資の必要性を感じつつ、投資を始めるための一歩を踏み出せない人が潜在的に存在すると思われる昨今、政府の後押しは重要である。
(戸谷 慈伸)